スパークリングホラー
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2018年2月13日


電車の中で出会った少女に見つめられてから、 異様な光景を目にするようになった彼。最後に彼を待ち受けるものとは……。

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 ほとんど人のいない穏やかに揺れる電車の中で、僕は見ていたスマートフォンからなんともなしに目を上げる。窓の外はもう宵闇にのまれており、時たま映る街灯や踏切の信号が殺虫灯に飛び込む蛾のように僕の目に入ってきた。
 いつも読んでいるペーパーバックを持ってくるのを忘れた僕は、ただただ流れる外の景色を見ながら他愛もないこと──バイトが面倒だとか家族は何しているだろうとか──を、ぼうっと考えていた。
 ふと周りを見渡すと、中学生くらいだろうか、化粧をしているわけではないけれど整った顔の女の子と目が合う。
 長い黒髪を綺麗に梳き、大きな目が少しだけ眠たげに閉じられている、鼻筋の通った人形のような白い顔。この時期に似合わない、黒い袖をした赤いワンピースと黒いストッキング、赤いパンプスを履いた少女。その周りに親のような人の姿はない。
 そんな子が薄い唇をほんの少しだけ曲げて、微笑みながらずっと僕を見つめている。僕が顔を少し動かすと、彼女の黒目も一緒に付いてくる。
 僕は思わず顔をしかめる。そんなに不審者みたいな服装はしていないはずだが、なにか気になることがあるのだろうか。とはいえ妙な動きをしたらこのご時世、本当に不審者になるか捕まることだろう。僕は無視して下を向き、待ち受け画面を家族写真にしているスマートフォンのロックを外す。
 そして、僕はそのまま固まった。
 待ち受け画面に映る家族みんなが僕を見つめていたからだ。写真の中に映る僕自身でさえも。もちろん、そんな風に撮った覚えはない。第一、顔を動かせば黒目も一緒に動く写真なんて、そうそうあるもんじゃない。
 僕は思わず目をつぶる。これは幻覚だ、頭の中の何処かがおかしくなったかなんかで、見えないものが見えてしまうのだろう。
 目を開いてもう一度写真を見る。
 家族全員から見られていた。
 幻覚を振り払うように頭を振ってもう一度。
 見られている。それどころか、皆の目が気味の悪いほどに見開かれている。こんな写真じゃなかった、それだけは確かだ。
 その様子があまりにも不気味で、僕はスリープモードにするのも忘れてスマートフォンをポケットに突っ込む。その時、ちょうど電車が駅で止まってドアが開き、何人かがガヤガヤと騒ぎ立てながら乗り込んできた。
 僕は思わず後ずさろうとして、電車のガラス窓に頭を強か打ち付ける。
 乗客全員に見られている。楽しそうに話す大学生や高校生も、一人寂しく乗り込んでいる高齢者も、皆が皆僕の方を見て薄ら笑いを浮かべていた。学生に至っては、話している相手じゃなくて僕を見ている。
 おかしい、こんなことがあるわけない。
 僕が誰もいない真正面を見ると、ガラス窓に座っている僕の姿が映る。
 その『僕』も、僕の目を見て薄ら笑いを浮かべていた。
 僕は床に目を落とす。すると誰かの靴跡と思わしき泥の跡が、顔のようになっていた。その目にあたる部分が僕の目を捕らえるかのように動く。僕がすかさず上を見ると、電車の天井に健康食品の広告が貼りだされていた。
 女性がサプリメントの容器を持って笑っている、良くあるタイプのあれだ。でも、その目はやはり僕を見つめていた。慌てて目を背けると、次は週刊誌の広告が目に入る。最近話題になった俳優の特集を組んでいるようで、その俳優の写真がでかでかと掲げられていた。
 そして、その目は、僕を見ていた。
 目から逃れられないと悟った僕は目をつぶる。こうすれば目の前にあるのは闇だけだ。そこに目は存在しなくなる。
 そう思っていた。
 けれど、最近見た映画のワンシーンが何ともなしに頭をよぎる。その登場人物はこちらを見つめては、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべていた。僕は首を振って頭に浮かんでいた映像を振り払う。すると、次は最近聞いた音楽のプロモーションビデオが目に浮かんできた。それはよくあるタイプの歌手のライブ映像を切り取った物だったけれど、やはり歌手も僕を見ては笑っていた。
 瞼は僕を守ってくれない。そう気づいて目を開ける。
 半狂乱になりそうな自分を抑えつつ──こんな公共の場で暴れれば間違いなく迷惑だという思考はまだ残っていた──僕は出来る限り誰とも目を合わせないように下を向きながら、僕は椅子から立ち上がって歩き始める。
 何処かに人が居ない車両があるはず。そんな微かな期待を抱きながら。

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 なんとか揺れる電車の中を歩き通して一号車までくると、そこには誰もいなかった。上手く場所さえ選べば広告も目に入らないし、ブラインドを下げれば窓に映る僕の姿も見えなくなる。
 ほっと胸をなでおろし、いやいやながら目を広告に合わせつつ歩いていくと、ただの風景が書いてある広告が貼られている場所を見つけた。僕はすかさず対面にある窓のブラインドを下げ、ため息をついてからシートに腰かける。
 やっと冷静になった僕は、バイト先に休みの連絡を入れようかと迷っていた。こんな状況じゃバイトもままならないのは明らかだ。一日寝れば少しは気分も良くなるかもしれない。
 結局、休むことに決めた僕は指の動きだけでロックを外し、出来る限り家族写真を見ないようにしながら──その間も目は合っていたけれど──電話アプリを開いて、登録してあるバイト先に電話を掛ける。電車の中で電話を掛けるのはマナー違反だが、切羽詰まっているこの状況でやむを得ない。
 自分をそうやって正当化しつつ数コール後に出た店長に具合が悪いことを伝えると、店長は「ゆっくり休め、何とか回すから。別の日にシフトを入れておく」と言ってくれた。僕は感謝の言葉を告げてから電話を切ってスマートフォンをポケットに仕舞う。
 少ししたら停車駅だ。そこで降りて、下りの電車に乗り換えて人の顔を見ないようにしながら部屋に帰って横になろう。そうすれば誰とも目を合わせずに済む。明日になれば、きっと誰とも目が合わなくなることだろう。なに、一日寝れば大抵の問題は解決するんだ。
 しかし、いったいどうしてこんなことになったのか。あの少女と目を合わせて以来こうなってしまったが、彼女がきっかけなのだろうか。それとも、僕が元々おかしくてこうなったのか。
 少し考えてみて、結論が出なかった僕は考えるのを止めた。どうでもいい、とりあえずは人の顔を見なければこんな不気味な経験をせずに済む。それに電話なら目を合わせずに済むのだから、お母さんに相談してみよう。こんなことを終わらせる、いい方法を知っているかもしれない。
 電車が速度を落とす。そろそろ目的の停車駅だ。
 ホームに入り、窓の外が明るくなってゆるやかに流れていく。僕はポールを掴んで、手近なドアの前に立つ。ホームにほとんど人はいないようだ。
 エアコンプレッサーの音が聞こえてドアが開く。僕が降りると、ほどなくドアが閉まる。そして、あの不気味な電車が去っていく風切り音が後ろから聞こえた。
 僕はあたりを軽く見まわした。なにせほとんど使ったことのない駅だ。時刻表を見ないと、何時来るのかさっぱりわからない。広告やポスターに目を向けないように注意しつつ時刻表を探すと、ほどなく目的のものを見つけた。
 近くまで歩き、腕時計と照らし合わせながら僕はいつ下り電車が来るのかを見ていると、不意に後ろから「ねえねえ、お兄さん」という可愛い声が聞こえてきた。声からして中学生くらいの透き通った声。
 僕が振り向くと、電車の中に居た彼女が気配もなく僕の後ろに立っていた。僕の胸くらいの身長と見間違いようのないあの顔、そして服装。
 その目は、僕を見ていた。
 ヒューヒューという息遣いが聞こえて、心臓から送り出される血液が耳の奥でうなりを上げ、脇の下や手のひらがじっとりと湿るのを感じる。彼女は「そんなに目を合わせるのが怖いの?」と子供らしい声で僕に訊ねる。その質問に何も言えないまま、僕は彼女を見つめる。けれど、頭の中では色々なものが駆け巡っていた。
 なぜここに彼女がいる? なぜ僕が人と目を合わせたくないと知っている? 一体いつから後ろに立っていた?
 そして、彼女は一体何者だ?
「そんなに怖いなら──」彼女が不気味な顔でにやりと笑う。その顔は人間とは思えないほど口角が吊り上がっていて、ともすれば引きつっているようだった。「──誰とも目を合わせないで済むようにしてあげるよ」
 その瞬間、彼女の目がすべて白く染まる。いや、彼女が目をぐるりと回して、僕に白目を剥く。
 同時に、周りのポスターや広告の人間たちの目も、一斉に白く染まった。

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[怖い話]第11話 三ツ辻 2018年1月6日


これは知人の体験談…
※文章で頂いたので原文のままです

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 私の家の近くには、外出するときは大体通ることになる三ツ辻がある。

 ある晴れた日。周りに人がほとんどいないとき。

 その三ツ辻を通ったとき、ふと寒気がした。

 私には霊感なんてものはなく、せいぜい『なにかいる』と思ったら毛が逆立つ程度しかない。

 だが、その時の寒気は、『なにかいる』ときの寒気だった。

──あ、不味い。

 そう思った刹那、自分の左側から声が聞こえた。

「こっちきてえ」

 女の声だった。か細いがはっきりした声。

 声が聞こえた瞬間、私の肌はまるで毛をむしった後の鳥のように逆立つ。
 
 当然ながら、横目で見ても隣に人などいない。

 気づいたと同時に襲う寒気。背筋に冷や水を浴びせかけられたような、そんな寒気。

 すぐに歩幅を大股にして、その辻から逃げ去る。その私の体は汗で湿っていた。

 以来、何度か辻を通っているが、同じような現象には会っていない。

 しかし、辻は魔物をとどめると言う。ならば、今もまだあの女は辻にいるのだろうか……? できれば、二度と会いたくはない。

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パラレル 2017年12月27日


待ち合わせ場所の駅で降りた彼は、目の前に広がる街並みに違和感を覚える。その街から出ようとする彼だが……?

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『──駅。左側のドアが開きます』
 僕は読んでいた小説を閉じてカバンに仕舞う。電車が止まると同時に僕は立ち上がり、今までいた見慣れた電車の床から、くすんだような灰色と黄色いラインが引かれている駅のホームに立ち位置を移す。ホームの柵の向こうに見える駅の前には、青色や黄色のライトがまぶしい、イルミネーションが見えた。
 電光掲示板に次の電車の到着時間が表示されているのが見える。19:24、ここは一時間に一本くらいしか電車が来ないようだった。僕は周りを見回して、改札につながる階段を見つけた。初めて降りる駅だと、勝手がわからなくて時たまこういうことがある。
 今日は久しぶりに会う友人と一緒に食事をするということで、友人曰く「今まで食ってきた中で一番うまい店」に近い、この駅に来ることになった。予定では友人が駅の西口で待っていてくれるそうだが、果たして遅刻癖のあるあの子が時間通りにいるのやら。
 そんなことを考えつつ改札を抜けて西口に降りると、案の定、友人の姿はなかった。
「やっぱりか」
 この時期にしては冷たい風が頬を切りつける。思わず、コートの襟をあげた。
 ふと違和感を覚えて、周りを見回す。
「あれ……? まだ、18時なのに」
 駅前にある明かりと言うと、目の前に広がるイルミネーションと街灯しかない。普通この時間帯なら、駅前にある飲食店なりコンビニエンスストアなり、別の明かりも見えるはずなのに。それに、街灯に照らされているほとんどの店のシャッターが閉まっていた。確かに日曜ではあるけれど、閉まるにはあまりにも早すぎる。
 駅の近くのコンビニを見ると、やはり電気が消えていた。近寄って営業時間を見ると、閉店の時間はAM 0:00。僕はいつもしているデジタル腕時計のバックライトをつける。そこに表示される時間は18:12。
「おかしいな……」
 停電だろうか? しかし、それなら街灯はついていないはずだ。イルミネーションだって消える。
 安物の時計だから時間がずれているのかもしれないと思い、スマートフォンの時計を見ると18:14と表示されていた。
 何かあって突然閉店したのだろうか? しかし、それなら張り紙くらいしておくだろう。
「どういうことだ……?」
 何とも言えない不安に襲われる。明らかに何かがおかしい。僕は友人に電話しようと、電話帳を開いて友人の電話番号をタップする。スマートフォンを耳に当てると、そこから聞こえるのは「ツーツーツー」という音だった。
──電話がつながらない……?
 もう一度かけなおす。
 ツーツーツー。
 もう一度。
 ツーツーツー。
 僕はスマートフォンを耳に当てたまま、電源ボタンを押す。手が震え始めたのは、寒さのせいじゃなかった。尋常じゃない寒気が背筋を撫でる。明らかに、今の状況はおかしい。第一、なぜ「おかけになった電話番号は~」とか「ただいま電話に出ることが~」とか「現在圏外で~」なんて文言が流れない? なぜ、通話終了ボタンを押したときの「ツーツーツー」なんだ?
 我を忘れそうになるのを必死で堪え、僕はスマートフォンをポケットにしまう。あることを思いついて、すぐさま取り出してマップアプリを起動した。
 まさか、現在営業時間の店全部が閉まっているわけはないはずだ。マップアプリを使えば、現在営業時間内の店をピンポイントで探せる。そこで固定電話でも借りれば、どこかにつながるはずだ。それにあと一時間もすれば、また帰りの電車が来る。友人には悪いが、この妙な空間から逃げ出すには約束を反故にしたっていい。あとで詫びを入れればいいだけの話だ。
 ともかく、今はこの状況から逃げること。
 僕は手早くマップアプリに営業時間中の店を探すように要求する。ほどなくして、いくつかの店にピンが立てられる。GPSをオンにして、僕は一番近い店に走った。
 
 荒い息のまま、僕は手近な電柱に片手をつけた。
「どこも開いてないなんて……」
 10か所は回った。総計すれば、5 kmくらいにはなるはずだ。なのに、どこもシャッターが閉まっていたりドアを開けようとしても鍵がかかっていたりして、開いていなかった。途中であった交番も電気がついていなかった。
 走ったせいで掻いた汗を、寒風が舐める。僕は首を数回振って、ディスプレイを眺めてみた。あと行っていない店はここから2 kmもある。でも、その店はこの地域でもよく見るスーパーマーケット・チェーンだ。開いている可能性は十分ある。
 行くべきか行かないべきか? 電車の時間まではあと30分。走れば、2 kmくらい15分もしないで着く。でも、もし間に合わなければ、僕はもう一時間この状況に取り残されることになる。
 その時、車のクラクションが前の方から聞こえてきた。見ると、ハイビームのヘッドライトが僕を照らし、思わず腕で目を覆う。小鹿のように固まってしまった僕の近くまでその車は来て、目の前で止まる。
「兄さん、大丈夫かい?」
 優しそうな声がする方を見ると、止まったのはタクシーのようだった。会社の表示やロゴがないあたり、個人営業だろう。運転手のおじさんがタクシーの運転席から身を乗り出し、僕の方を不安そうに見ていた。
 僕は初めて会った人を見て驚き半分嬉しさ半分のまま、上ずった声で運転手に訊ねた。
「すみません、ここは何処ですか?」
「ここが何処か? ここは──」この場所の地名を運転手は口にする。「──だよ。どうしたんだい?」
「なんで、この町はこんなに早いのに全部店が閉まっているんです?」
「え?」運転手が驚いたように周りを見回す。すこしして、合点がいったように頷いた。「……ともかく、君を駅に送ろう」
 そういえば、あまりの非現実さに友人の存在を忘れていた。もしかしたら、友人が駅で待っているかもしれない。電話がつながらない今の状態じゃ、本当にいるかどうかなんてわからないけれど。
「すいません、お願いできますか」
「もちろんだ」
 運転手が降りて、ドアを開ける。僕は後部座席に座ってシートベルトを着けた。ドアを閉めた運転手は運転席に戻り、シートベルトを締めてメーターを回しはじめた。
「じゃあ行くよ」
「お願いします」
 そういって、電気のついていない町をタクシーは進んでいった。
 少し走ったところで、運転手が興味深そうに聞いてきた。
「また、どうしたんだい。こんな街の中で一人なんて」
「それが──」
 僕はここに至る経緯を運転手に説明した。待ち合わせ場所に来たのは良いものの友人が居なかったこと、街に感じた違和感の正体のこと、友人への電話が通じなかったこと、なんとか連絡を取ろうと町中を徘徊していたこと。
 すべて聞いた運転手は頷いて、「そいつは大変だったねえ……でも、遭難したときはあまり下手に動き回らない方がいいんだよ」と教えてくれた。
「遭難?」
「そう。君の状況はまるで遭難じゃないか、未知の場所で外と連絡を取れずに彷徨うなんて、遭難以外の何物でもないよ」
 言われてみれば、確かにそうだ。まさか、街中でこんな風に遭難することになるとは思ってもみなかったが。
「遭難して、友人の肉を食った登山グループの話もあるし……下手に動くのは良くないよ。今回は私が君を拾えたからいいけれど、そうじゃなかったらどうなっていたか」
「そうですね……」
 駅のイルミネーションが見えてくる。タクシーは駅前のロータリーを回って、タクシー乗り場に車をつけた。

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 僕が料金を支払いながら──友人とはいつも割り勘でたまにおごるため、今日も余分にお金は持ってきていた──運転手にお礼を告げると、「そんな。君こそ大変そうだったからね、気にしないで良いよ」とほほ笑んだ。
 開いたドアから僕は降りる。ドアの側に立っていた運転手さんに、改めて僕はお礼を言った。
「運転手さんが拾ってくれないと、何してたかわかりませんし。ありがとうございました」
「いいんだよ。じゃあ、気を付けるんだよ」
 そういって、運転手さんはドアを閉めて運転席に座る。そして僕が見送る中、タクシーを駆って街の闇の中に消えていった。
 今の時間は19:18。帰りの電車に乗るにはちょうどいいくらいの時間だ。安心感からゆっくりと改札をくぐって駅のホームに降りると、いきなりスマートフォンのけたたましい着信音が鳴り響いた。
 あわててスマートフォンをポケットから取り出し、受信ボタンをスライドさせて耳に当てる。すると、電話越しでも分かるほどの喧騒と友人の苛ついたような声が耳をつんざいた。
「おい、どこにいんだよ」
 その言葉に苛立ち、「おまえこそどこにいるんだよ。こっちは一時間も待ち合わせ場所の西口に居たんだぞ」ととげとげしい口調で返す。
「はあ? そっくりそのままそのセリフを返すぞ、畜生。何度電話しても出やしねえし、やっとつながったと思ったら嫌味か?」
「なんだって? こっちだってな……」その時、嫌な考えが頭をよぎる。「おい、今何時だ」
 いきなりそんなことを聞かれた友人は、虚をつかれたように変な声を出す。それでも、「19:24だ」と答えた。
 僕も腕時計を見る。19:24、間違いない。なのに、電車はおろかアナウンスすらない。遅延の連絡もない。そういえば、駅員は何処に行った? なんでこんなに電話越しに喧騒が聞こえるのに、僕は誰一人としてすれ違わなかった?
 嫌な予感に包まれる。僕は恐る恐る、口に出したくないことを口に出した。
「なあ、お前今どこに居るんだ」
「はあ?」友人は怪訝な声で「──駅の西口だけど」と言った。

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[怖い話]第10話 疲れ目 2017年12月11日


これはぐおじあの体験談…

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最近疲れ目です。

ふとした時に変なモノが見えます。
壁にかけてあるスーツをふと見た時にはこんなモノが…


※画像はイメージです

休息は大事です_ノ乙(、ン、)_

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2017年11月26日


極寒の中、娘の誕生日に向かった彼は川に架かる橋の上で酷い渋滞にはまる。だが、その橋は車の重みに耐えきれず……。

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 あの日は今でも覚えている。忘れようにも、忘れられないあの日のことを。
 私がこのことを綴る意味は治療の一種なのだそうだ。正直、効果があるのか懐疑的なのだが……カウンセラーが言うのだから、そうなのだろう。
 あれは寒い、寒い夜のことだった。身を切るような寒さ……いや、切られたのは身だけではなかったのだが──。

 厚い強化ガラスに阻まれても聞こえる、けたたましいクラクションがそこら中で鳴り響いていた。私は騒音と渋滞からくる苛立ち、約束に間に合わないのではないかと言う焦り、両方に苛まれて車のハンドルを指で叩いていたのを覚えている。
『──町では氷点下20℃を記録し、地元の水道局は水道管の凍結防止のために、水を流し続けることを推奨しています。また、電線への着氷により停電した地域への支援を行うと、政府は発表しました』
 ラジオからニュースが流れ、私はラジオの時計を見た。娘の誕生パーティまで、あと30分ほどしかない。この橋から家までは、運が良くても車で20分はかかるというのに。
「勘弁してくれよ……」
 ハンドルを叩くテンポが上がっていった。この橋がこんな風に渋滞するなんて珍しかった。ラジオ曰く、橋の出口で玉突き事故が起きて、その交通整理で渋滞しているとのことらしい。
「にしても、動かないな」
 回転する赤色灯がそこら中を赤く染め、私は車の暖房を強めた。
 その時、聞いたこともないような音が上から聞こえた。まるで──そんなことできる人間がいればの話だが──電線を両方から引っ張って、引きちぎったかのような音。
 風切り音。金属がひしゃげ、ガラスが飛び散る音。盗難警報。そして、悲鳴。
 シートに座ったまま、素早く辺りを見回した。
 すると、ドアミラーに信じられないものが見えた。自分の車からそう遠くないところに、何かに押しつぶされた銀色のセダンがあったのだ。それも押しつぶしたものは未だに左右に揺れている太い紐、橋を支える重要なケーブルの一本だった。
 その光景はあまりにも現実離れしていて、呆然と見つめるだけだった。
 また、あの引きちぎったような音が聞こえて音の方に目を向けると、黒いバンがケーブルとぶつかった勢いで高欄から飛び出したのが見えた。
『速報です。マーキュリーブリッジで、ケーブルが切れたという報告が入りました。近隣の住民及び橋の上にいる方は、すぐに退避してください。崩落の恐れがあります』
 ラジオから緊張したMCの声が聞こえ、それと同時に、またしてもケーブルが切れる音が聞こえた。
──逃げないと。
 そう思った私は先程とは打って変わって素早くドアを開け、出口に向かって走った。今思えば、娘のプレゼントを車の中に置きっぱなしだった。とはいえ、あの時はそんなことを考えている暇もなかったのだが。
 他の車から降りた人たちも出口に向かって走っていた。ある人は子供を抱きかかえながら、ある人は妻と思わしき女性の手を取りながら。
 橋の上は阿鼻叫喚の様相を呈していた。悲鳴がこだまし、ともかく逃げることだけが一番で、暗くてよく見えないものの所々に水たまりのような何かが見えた。
 その時、ケーブルの切れる音が連続して聞こえ、私の数メートル先の一団に直撃した。この時、出来れば一度も聞きたくなかった『ある音』を私の耳は初めて聞いた。
 その音と金属がひしゃげる音、悲鳴が入り混じって耳の中で反響し、私は吐き気を催して足を止めた。
 間髪入れず、後ろから悲鳴と車がぶつかり合う音が聞こえてきた。振り向くと、目を見開いて半狂乱になった中年の男が、SUVのハンドルを握り締めて渋滞の中を突き進んでいた。車のバンパーは見えず、ボンネットには赤黒くペイントがされ、凹んでいたように見えた。
 その車がほかの車にぶつかるたびに、また聞きたくもない音が耳に届き、甲高い悲鳴が聞こえてきた。
 すると、SUVの前方にあるアスファルトが、岩の割れるような音とともに盛り上がったのが見えた。だが、車はそれに気づかないのか間に合わなかったのか……真正面からぶつかった。空しくタイヤが空回りする音とともに、ぐるぐると回転しながら高欄から飛び出して闇に消えてしまった。
 その時、私の耳に「助けて」という声とガラスと叩くような音が聞こえたような気がした。
 辺りを見回すと、そう離れていないセダンの後部座席に娘と同じ年頃の少女が閉じ込められているのが見えた。そのセダンはいつの間にか切れていたケーブルに弾き飛ばされた自動車にぶつかられたようで、側面が凹んで彼女がいるドアの下には滴ってインクだまりが出来るほどべっとりと赤黒いペンキが塗られていた。
 駆け寄ると、彼女がリアガラスを平手でたたいていた。私はトランクルームのドアノブを引っ張ったが、びくともしなかった。ドアを開ける中の機構が壊れてしまったのだろう、これではガラスを割る以外に方法はない。
「少し待っていてくれ」
 以前、テレビで強化ガラスは尖ったもので割れると聞いたことがあった。私は崩落したアスファルトの近くへ走り、欲しいものをすぐに見つけた。少し大きめの、鋭く尖ったアスファルトの欠片だ。
 それを手に持ち、セダンに駆け寄り叫んだ。
「伏せてろ」
 リアガラスに尖った欠片をたたきつけた。二回叩いただけで、ガラスは砕け散った。
「出るんだ、急げ」
 彼女が手を伸ばす。私は手をしっかり握り、引きずり出した。二人が無様に橋の上に転がり落ちたが、私は橋の軋む音が少しずつひどくなる事の方が不安だった。この音が本格的に崩落する予兆なのは間違いないからだ。
 荒い息遣いのまま、彼女が途切れ途切れに「ありがとう、おじさん」と軋む音にかき消されそうなほど小さな声で呟く。私が頷くのも忘れて「立てるかい?」と早口で聞くと、彼女は頷いた。
「よし、早く逃げるんだ。時間がない」
「うん」
 彼女が立ち上がるのに手を貸し、二人で手を繋いだまま橋の出口に向かって走った。周りにはほとんど人がおらず、けたたましい盗難警報器の音と橋が軋んだりこすれたりする耳障りな音だけが響いていた。

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 しばらく走ってパトカーや救急車が止まっている出口が見えてきたころ、今まで聞いたことの無いような音が聞こえ、ふと足場が無くなったか自分の体が浮いたような感じに襲われた。空っぽの胃から胃液が口にせりあがってくるような──思えば、あの時はのどの渇きも忘れていた──感覚、陰嚢がせりあがるあの感覚、その二つに襲われた。何とか地に足をつけようと力を入れると、足が宙を切る。嫌な予感がして下を見ると、橋桁が斜めになっていた。
 振り向くと、橋は黒い水を湛えた極寒の地獄に餌を与える漏斗のように、川に落ちていた。
 橋桁に彼女と一緒にたたきつけられた。その衝撃で手を放してしまいそうになったが、私は彼女の手を放すわけにはいかなかった。橋の下に待ち構えているのは地獄だ。私の娘と同じような年頃のこの子を、地獄に送り込むわけにはいかなかった。
 悲鳴が聞こえて彼女の方を見ると、寒さのせいで突っ張っていた口の端が切れて、血がにじんでいた。背中がアスファルトとこすれ合うのを感じ、自分が少しずつ滑り落ちていると気づいて近くの車のホイールに指をかけたが、あの時は車も一緒に滑り落ちていたからなのだろう、いくら力を入れても私たちは滑り落ちていった。川まであと十何メートルもなかった。
 その時、橋桁にできた割れ目を見つけ、何とか手をかけた。これでようやっと、滑り落ちることはなくなった。殆ど時間を置かず、先ほどまでしがみついていた車は派手な水しぶきを上げて、川へと滑り落ちていった。
 だが、寒さと二人分の重さを支える疲労で、私の腕は悲鳴を上げ始めた。
 このままでは、そう時間もかからず二人で極寒の川に滑り込むことになるだろう。しかし手を放せば、もう片手を使って自分の体を持ち上げれば、助かるかもしれない。
 だが、彼女を殺すことになる。
 逡巡している間に、指が一本、また一本と私の意思を拒み始めたのを感じた。
 今動く指は二本だけ。もし不意に放してしまえば、息も吸えずに冷たい水の中に入ることになり、おぼれ死んでしまうと考えていたのを覚えている。
 私は覚悟を決め、彼女に向かって叫んだ。
「息を吸い込んで、止めるんだ」
 彼女が息を吸い込んで、口を閉じる。それを見て、私も同じように肺一杯に冷たい空気を吸い込んだ。その空気はあまりにも冷たく、喉が切れそうなほどだった。
 そして、私は力を抜いた。

 結局、私たちが警察のボートによって水から引き上げられたのは、二人して川に飛び込んでから15分後だったそうだ。私たちは低体温症をおこしていて、すぐさま救急搬送されて手当てを受けた。だが、手当の甲斐なく、彼女は助からなかった。彼女の体にとってはあまりにも冷たすぎる川の水は、彼女を地獄に引きずり込んでしまったのだった。
 今も彼女の最後の顔を、ポートフォリオを描けるくらい覚えている。しかし、彼女のあの顔を見ることはもうできないのだ。
 私を苛むものはまだある。回復してから、私は警察に簡単な事情聴取を受けた。そこで聞いたのは、彼女の親のことだった。
 警察が川の底を浚うと、老若男女問わない遺体とともに彼女の母親と思わしき遺体が出てきたそうだ。思わしきということはつまり、体の上半分が見わけもつかないほど潰れていたから、指紋で照合するのがやっとだったからだそうだ。
 たぶん、あのセダンについていたペンキは、彼女の母親の血だったのだろう。そして、ドアの前に付いていたということは、彼女を助けるためにドアを開けようとしたところを、ケーブルに襲われてしまったということなのだろう。
 次いで、父親のことも聞いた。父親は今から数年前に、病気で亡くなっていたのだそうだ。だから、彼女は母親しか身寄りがなかった。
 なのに、その母親が目の前で死んだ。
 彼女に聞くことはもうできない。だが、彼女は一体何を考えていたのだろうか。それを思うと、私は夜も眠れなくなってしまった。
 それに、私は結局彼女を救うことができなかった。娘と同じ年頃で将来の夢を抱いていたあの時に、彼女は命を奪われた。私にもう少し力があれば、彼女を救うことができたかもしれない。警察のボートが到着するまでしがみつけていれば、彼女は死ななかったかもしれない。
 かもしれない、かもしれない。可能性が私を苛む。苛んで苛んで、私はもうまともではいられなくなってしまった。
 妻や子供はそんな私を支えてくれる。けれど、私は二人を見るたびに、彼女とその母親のことを思い出してしまう。文字を紡ぐたび、目を動かすたびに、彼女の面影が私の目の前をよぎる。
 私は今もあの橋にいるのだ。つりさげているケーブルが切れて子供を殺した私が地獄に落ちるのは、何時になるのだろう。

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[怖い話]第09話 真夜中の追跡者 2017年10月30日


これはぐおじあの知り合いの体験談…
※記憶が曖昧な部分は多少創作が入ってます

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OLのAさんはある時残業で終電となってしまい、
急いで家路についていた。

最寄りの駅で電車を降り、徒歩で10分程の家まで歩く。

歩いていると誰かにつけられている気がした…

Aさんの家は都市部にあるため、
深夜の時間帯でもそれなりに人が多い。
振り返っても特に怪しい人は居ない。

でも、つけられている気がする…

Aさんは足早に帰宅し、
誰もついて来ていない事を確認して玄関のドアに施錠した。

翌日も朝早く仕事に行かないといけないため、
早々にお風呂に入り床に就く準備を整えた。

ベッドに入りサイドテーブルのライトを点けようとした瞬間、
Aさんの横に体育座りをした半裸の中年男性が居た。

その後のAさんの記憶は朝まで無い…

「あの時は残業続きで疲れていたからね~」
と、Aさんは笑いながら夢を見ていたと言っていた。

p.s.

僕はコレをいつかゲーム中で再現したいと思っている☆

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[怖い話]第09話 真夜中の追跡者 へのコメントはまだありません

[怖い話]第08話 おばぁちゃん 2017年10月29日


これは社員のまめこさんの体験談…

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高校生だったある日のこと…

母は仕事で夜いない日が月に何回かあった。
兄は怖い話や怖いテレビに映画怖い物が大好きだったのだが、
その流れか母のいない日にプチ肝試しをすることがあった。

兄は免許も車もあったため車で山に出掛けていた。
と言っても近くの山道を行く程度なので一周20分程。

いつものように肝試しに行く。

いつも何も起こらない。

山道を抜け集落に入りまた山道というところで
おばぁちゃんが畑にいた。

もう暗いのになにか採りに来たのだろうか。

私は何気なく

「おばぁちゃん大丈夫かな。もう暗いからあぶないよ。」

と言ったら、兄が

「え?だれもいなかったけど・・・。」

私は考えるのをやめた。

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[怖い話]第08話 おばぁちゃん へのコメントはまだありません

2017年10月27日


 日常に違和感を覚えた彼は、ふと入った化粧室の鏡を見て驚愕する。そこに、写っていたものとは。

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 けたたましい目覚まし時計の音に目を覚ます。時計を手に取って見ると、今は八時半。
 遅刻確定だ。いつもなら、八時には家を出ないといけないのに。
「やべえ」
 慌てて服を着替え、鏡のない台所で歯を磨いて濡れたタオルで顔をぬぐう。朝飯を食べる時間もないし、髪も手櫛で適当に整えればいいだろう。なにより、今日は重要な取引先との商談がある。その準備を急いで終わらせて、身支度を整えればいい。
 そんなことを考えながら、カバンの中を確認する。
──よし、必要なものは全部入っている。
 カバンの取っ手を掴み、俺はドアのかぎを開けて外に出た。次の電車に乗れれば、何とか間に合うだろう。
 10分かかるところを8分で駅につき、息を切らしながら上を見ると、ふと気になったことがあった。いつもなら、上り線は右にある2番ホーム──この駅は線路が二本しかない島式1面だ──のはずなのに、今日は左にある1番ホームだった。
「おかしいな……」
 駅員さんに聞いてみようかと思って周りを見渡すが、相変わらずここの駅は人がいない。そうこうしているうちに、電車が来る趣旨のアナウンスが鳴り響く。
 目の前に電車が止まり、俺は乗り込む。車内はガラガラで、人影は両隣の車両にも見えない。これなら、椅子に座れるだろう。
 しばらくスマートフォンを弄りながら電車に身を任せていると、上司から電話が来た。そういえば、遅刻すると連絡し忘れていた。
「まずい」
 それも怖いことで有名な有田さんだ。時間にも厳しく規律にも厳しい、このタイミングで話したくない人ナンバーワンだ。間違いなく怒られるに違いない。
 とりあえず着信ボタンをタップし、電話を耳に当てる。
「すみま──」
『どうしたんだ、鏡味くん。遅れるなんて珍しい。体調でも悪かったのか?』
 声は間違いなく有田さんだが、いつもの有田さんの話し方じゃない穏やかな話し方だ。それに、俺は遅刻の常習犯だったはずなのに。
「え……あ、いえ、寝坊してしまって」
 記憶とのギャップで言葉に詰まる。そんな俺をよそに、有田さんは豪快に笑った。
『そういうことだったか。今日は重要な商談はないんだ、気を付けて来るんだよ』
「え? 半田商事との商談があるはずでは?」
『いやいや、半田商事とは明日だよ。慌てすぎて、予定がこんがらがったんじゃないか?』
 どうにも腑に落ちないが、有田さんがそういうならそういうことなのだろう。あとでスケジュール表を見てみないと。
「あ……そうかもしれません」
『他に何かあるか?』
「いえ、特には」
『わかった。会社についたら、私のデスクに来るんだ、任せたい仕事がある』
「わかりました。では、失礼します」
 電話を下ろし、通話終了ボタンをタップする。すかさず、スマートフォンのスケジュール表をタップすると、半田商事との商談は明日だった。
──なんだ。有田さんの言う通り、やっぱりこんがらがっていただけか。
 長く息を吐いて、俺は電車の椅子に沈み込む。上司に怒られないという安堵と取引をお釈迦にしないで済むという事実のおかげで、細かいことはもう気にならなかった。

 電車を降りて、いつも通り北口から右に歩く。すると、左に歩いたときに見えてくるはずの商店街が見えてきた。
──あれ?
 右と左を間違えただろうか? スマートフォンを取り出し、マップアプリを開いて覚えている会社の住所を打ち込む。すると、北口から左に歩けとの表示が出てきた。
「おかしいな……」
 何とも言えないモヤモヤが心を覆うのを感じつつ、踵を返して左に歩く。しばらく歩くと、会社が入居している見まごうことのない灰色をした雑居ビルが見えてきた。
 今日はおかしなことばかりだ。電車は上下反対になっているし、厳しい上司は打って変わって優しいし、右に歩いたと思ったら左に歩いている。いつから、俺は右左が分からなくなったのか。
 悩んでいても仕方ない。とりあえず、仕事に行かないと。
 エントランスに入る。いつもなら右にあるはずのエレベーターは、やはり左にあった。管理人でもいれば話を聞いてみてもいいが、今日は誰もいない。
 俺は一階に止まっているエレベーターに乗り込み、会社の入っている3階のボタンを押して、カバンから名前やらなんやらが書いてある社員証を取り出し首にかけた。
 エレベーターはけたたましい音を立てながら、上へあがっていった。
 会社につくと、入り口近くにデスクのある同期の萩野さんが俺の顔を見て、苦々しい顔をした。遅刻したというのに悠々と入ってきたせいで、彼女の気に障ったのだろうか。俺と彼女は同期で仲は比較的良い方だったはずだけど。
 ともかく、いったん自分のデスクにカバンを置いた俺は有田さんのデスクに向かうと、彼は何やら書類にサインをしていた。
 俺は頭を下げる。
「遅れてすみませんでした」
 彼が顔を上げる。
「電話でも言ったけど、大丈夫だ。とりあえず──」彼がサインしている書類とは別の、ファイルに入った分厚い書類を差し出す。「これを終わらせてくれないか」
 頭を上げ、俺は書類を受け取った。
「分かりました」
 自分のデスクに向かいながら書類を捲ると、分厚い割には対して難しくもない仕事だ。これなら、昼休みまでには何とか終わらせられるだろう。デスクについて仕事を始めると、自分の心を覆っていたモヤモヤは時間が経つにつれて雲散霧消していった。

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 昼休みの時間に入り、俺は伸びをした。先程の仕事もほとんど終わり、あとは確認だけすればいい。
 そういえば、元々ここには大して人はいないが、今日は有田さん、萩野さん、俺の三人しかいない。いつもなら佐藤さんや中西さんもいるのに。
──まあ、いいか。とりあえず、昼飯を食いに行こう。
 そう思い、俺はデスクから立ち上がって社員証を外しながらエレベーターに向かう。社員証はポケットにつっこんでおけばいいだろう。
 すると、その途中で萩野さんと会った。
「こんにちは」
「……」
 無視。いつもなら、返事を返してくれるのに。
 なんだろう、彼氏にでも振られて機嫌が悪いのだろうか。まあ、腫れ物に触れないほうがいいのは身をもって経験している。放っておけば、明日には機嫌を直していることだろう。
 そんなことを考えつつ、俺と萩野さんはエレベーターに乗り込んで一階を押した。そこでも、やっぱり彼女は機嫌が悪そうだった。
 それから30分くらいして、昼を食べ終えた俺は行く当てもないので会社に戻ろうと雑居ビルに向かう途中、またしても街並みに違和感を覚えた。来るときに気づかなかったのは、遅刻したせいで慌てていたからだろう。
──ん?
 俺の記憶にある街と左右が反対だ。左側にあった薬屋は通りの右側にあるし、右にあった本屋は左にある。
 本当に移動したのか? いや、そんなことはないだろう。なにせ、数多ある雑居ビルも全部移動しているのだから。
 そうなると、俺の記憶がおかしいのか、それとも世界が反転したのか。
 しばらく立ち止まって考えてみても、どっちが正しいのか分からない。とはいえ後者は物語じゃあるまいし、そんなことが起こるなんてありえない。前者だって、なにか特別なことをした記憶はない。今週末の土曜日、医者に行ってみよう。もしかしたら、頭に何か……腫瘍か出血かがあるのかもしれない。
 とりあえず、会社に戻ろう。昼休みもあと15分くらいしかない。

 雑居ビルに戻ると、不意に尿意を感じて化粧室に駆け込んだ。用を済ませて時計を見ると、まだ7分くらいある。戻る時間は十分あるだろう。
 ズボンを上げて、ポケットに入れておいた社員証を首にかける。
 洗面台に歩いて行って手を洗う。そういえば、身だしなみをほとんど整えていなかったっけ。
──丁度いい、ついでだ。
 顔を上げて鏡を見る。その時、俺はみぞおちの辺りにあり得ないものを見た。
 目を見開く。鏡の中の俺も、目を見開いた。
「ありえない、そんな馬鹿な」
 鏡の中の口が動く。その口も『ありえない、そんな馬鹿な』と動いた。鏡に右手をつくと、中の俺も左手を鏡につく。
 そうか、これが原因か!

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[怖い話]第07話 念仏 2017年10月20日


これは社員のまめこさんの体験談…

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アパートで独り暮らしをしていた時のこと。
その日は年に1回なるかどうかの金縛りにあっていた。

怖いなと思いつつ早く寝たいと考えていたが
ふと天井の角に目をやると・・・
男の人がコウモリのような逆さの状態でしゃがみ込みこちらをじっと見ていた。

眠気も吹き飛び鳥肌がたち凍り付く。
どうしたらいいかもわからない。
とりあえず思いつく限りの念仏を頭の中で唱えた。

はやくいなくなれ!!

懇願していると
すっと自分の枕元の横に誰かが座った。

自分が産まれる前に亡くなった祖母だった。

写真でしか見たことがなかったがすぐにわかった。
祖母は横を向いたまま一緒に念仏を唱えてくれた。

何分経っただろうか。
数秒だったのかもしれない。

ばーちゃん初めて近くで見たなと思ったらすぅっと消えていった…

金縛りも解けて男の人も消えていた。

ばーちゃんありがとう。

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[怖い話]第06話 お風呂 2017年10月15日


これは社員のまめこさんの体験談…

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数時間前の出来事だ。
私は長男とお風呂に入るのが日課だ。
遊ぶことに必死な長男にいつも
「鬼におへそとられるから湯船に浸かって隠しなさい」
と言っていった。
普段は何回いっても効果がないし風邪ひいたら明日お外で遊べないなど
色々追加してやっと浸かる。
しかし今日は体を洗って湯船に行くと自ら浸かった。
今日は浸かる気分なのかと呑気なことを考えていると
「鬼来ない鬼来ない鬼来ない鬼来ない・・・」
長男が言っている。
「おへそ隠してるから大丈夫だよ」
と言っても
「鬼来ない!」
と怒っている。
「鬼いるの?」
聞いてみると・・
「ちょちょにいる!(ここにいる!)」
と半泣きで扉の方を指さした。
その瞬間ぶわっと鳥肌がたった。

お風呂をあがる前にシャワーをかけるのが日課なのだが、
ザーッとかけていると
「めっ!めっ!鬼めっ!」
と急に長男が言った。
「鬼いない~」
どうやらシャワーの水が鬼に有効だったらしい。
長男が言うには男の方らしい。
通りすがりだったのだろうか。

p.s.
お風呂覗きが趣味の幽霊とかいるんだろうか…
そしてシャワーが有効だってのは良い情報だφ(゜ρ゜)

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