スパークリングホラー
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2017年10月27日


 日常に違和感を覚えた彼は、ふと入った化粧室の鏡を見て驚愕する。そこに、写っていたものとは。

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 けたたましい目覚まし時計の音に目を覚ます。時計を手に取って見ると、今は八時半。
 遅刻確定だ。いつもなら、八時には家を出ないといけないのに。
「やべえ」
 慌てて服を着替え、鏡のない台所で歯を磨いて濡れたタオルで顔をぬぐう。朝飯を食べる時間もないし、髪も手櫛で適当に整えればいいだろう。なにより、今日は重要な取引先との商談がある。その準備を急いで終わらせて、身支度を整えればいい。
 そんなことを考えながら、カバンの中を確認する。
──よし、必要なものは全部入っている。
 カバンの取っ手を掴み、俺はドアのかぎを開けて外に出た。次の電車に乗れれば、何とか間に合うだろう。
 10分かかるところを8分で駅につき、息を切らしながら上を見ると、ふと気になったことがあった。いつもなら、上り線は右にある2番ホーム──この駅は線路が二本しかない島式1面だ──のはずなのに、今日は左にある1番ホームだった。
「おかしいな……」
 駅員さんに聞いてみようかと思って周りを見渡すが、相変わらずここの駅は人がいない。そうこうしているうちに、電車が来る趣旨のアナウンスが鳴り響く。
 目の前に電車が止まり、俺は乗り込む。車内はガラガラで、人影は両隣の車両にも見えない。これなら、椅子に座れるだろう。
 しばらくスマートフォンを弄りながら電車に身を任せていると、上司から電話が来た。そういえば、遅刻すると連絡し忘れていた。
「まずい」
 それも怖いことで有名な有田さんだ。時間にも厳しく規律にも厳しい、このタイミングで話したくない人ナンバーワンだ。間違いなく怒られるに違いない。
 とりあえず着信ボタンをタップし、電話を耳に当てる。
「すみま──」
『どうしたんだ、鏡味くん。遅れるなんて珍しい。体調でも悪かったのか?』
 声は間違いなく有田さんだが、いつもの有田さんの話し方じゃない穏やかな話し方だ。それに、俺は遅刻の常習犯だったはずなのに。
「え……あ、いえ、寝坊してしまって」
 記憶とのギャップで言葉に詰まる。そんな俺をよそに、有田さんは豪快に笑った。
『そういうことだったか。今日は重要な商談はないんだ、気を付けて来るんだよ』
「え? 半田商事との商談があるはずでは?」
『いやいや、半田商事とは明日だよ。慌てすぎて、予定がこんがらがったんじゃないか?』
 どうにも腑に落ちないが、有田さんがそういうならそういうことなのだろう。あとでスケジュール表を見てみないと。
「あ……そうかもしれません」
『他に何かあるか?』
「いえ、特には」
『わかった。会社についたら、私のデスクに来るんだ、任せたい仕事がある』
「わかりました。では、失礼します」
 電話を下ろし、通話終了ボタンをタップする。すかさず、スマートフォンのスケジュール表をタップすると、半田商事との商談は明日だった。
──なんだ。有田さんの言う通り、やっぱりこんがらがっていただけか。
 長く息を吐いて、俺は電車の椅子に沈み込む。上司に怒られないという安堵と取引をお釈迦にしないで済むという事実のおかげで、細かいことはもう気にならなかった。

 電車を降りて、いつも通り北口から右に歩く。すると、左に歩いたときに見えてくるはずの商店街が見えてきた。
──あれ?
 右と左を間違えただろうか? スマートフォンを取り出し、マップアプリを開いて覚えている会社の住所を打ち込む。すると、北口から左に歩けとの表示が出てきた。
「おかしいな……」
 何とも言えないモヤモヤが心を覆うのを感じつつ、踵を返して左に歩く。しばらく歩くと、会社が入居している見まごうことのない灰色をした雑居ビルが見えてきた。
 今日はおかしなことばかりだ。電車は上下反対になっているし、厳しい上司は打って変わって優しいし、右に歩いたと思ったら左に歩いている。いつから、俺は右左が分からなくなったのか。
 悩んでいても仕方ない。とりあえず、仕事に行かないと。
 エントランスに入る。いつもなら右にあるはずのエレベーターは、やはり左にあった。管理人でもいれば話を聞いてみてもいいが、今日は誰もいない。
 俺は一階に止まっているエレベーターに乗り込み、会社の入っている3階のボタンを押して、カバンから名前やらなんやらが書いてある社員証を取り出し首にかけた。
 エレベーターはけたたましい音を立てながら、上へあがっていった。
 会社につくと、入り口近くにデスクのある同期の萩野さんが俺の顔を見て、苦々しい顔をした。遅刻したというのに悠々と入ってきたせいで、彼女の気に障ったのだろうか。俺と彼女は同期で仲は比較的良い方だったはずだけど。
 ともかく、いったん自分のデスクにカバンを置いた俺は有田さんのデスクに向かうと、彼は何やら書類にサインをしていた。
 俺は頭を下げる。
「遅れてすみませんでした」
 彼が顔を上げる。
「電話でも言ったけど、大丈夫だ。とりあえず──」彼がサインしている書類とは別の、ファイルに入った分厚い書類を差し出す。「これを終わらせてくれないか」
 頭を上げ、俺は書類を受け取った。
「分かりました」
 自分のデスクに向かいながら書類を捲ると、分厚い割には対して難しくもない仕事だ。これなら、昼休みまでには何とか終わらせられるだろう。デスクについて仕事を始めると、自分の心を覆っていたモヤモヤは時間が経つにつれて雲散霧消していった。

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 昼休みの時間に入り、俺は伸びをした。先程の仕事もほとんど終わり、あとは確認だけすればいい。
 そういえば、元々ここには大して人はいないが、今日は有田さん、萩野さん、俺の三人しかいない。いつもなら佐藤さんや中西さんもいるのに。
──まあ、いいか。とりあえず、昼飯を食いに行こう。
 そう思い、俺はデスクから立ち上がって社員証を外しながらエレベーターに向かう。社員証はポケットにつっこんでおけばいいだろう。
 すると、その途中で萩野さんと会った。
「こんにちは」
「……」
 無視。いつもなら、返事を返してくれるのに。
 なんだろう、彼氏にでも振られて機嫌が悪いのだろうか。まあ、腫れ物に触れないほうがいいのは身をもって経験している。放っておけば、明日には機嫌を直していることだろう。
 そんなことを考えつつ、俺と萩野さんはエレベーターに乗り込んで一階を押した。そこでも、やっぱり彼女は機嫌が悪そうだった。
 それから30分くらいして、昼を食べ終えた俺は行く当てもないので会社に戻ろうと雑居ビルに向かう途中、またしても街並みに違和感を覚えた。来るときに気づかなかったのは、遅刻したせいで慌てていたからだろう。
──ん?
 俺の記憶にある街と左右が反対だ。左側にあった薬屋は通りの右側にあるし、右にあった本屋は左にある。
 本当に移動したのか? いや、そんなことはないだろう。なにせ、数多ある雑居ビルも全部移動しているのだから。
 そうなると、俺の記憶がおかしいのか、それとも世界が反転したのか。
 しばらく立ち止まって考えてみても、どっちが正しいのか分からない。とはいえ後者は物語じゃあるまいし、そんなことが起こるなんてありえない。前者だって、なにか特別なことをした記憶はない。今週末の土曜日、医者に行ってみよう。もしかしたら、頭に何か……腫瘍か出血かがあるのかもしれない。
 とりあえず、会社に戻ろう。昼休みもあと15分くらいしかない。

 雑居ビルに戻ると、不意に尿意を感じて化粧室に駆け込んだ。用を済ませて時計を見ると、まだ7分くらいある。戻る時間は十分あるだろう。
 ズボンを上げて、ポケットに入れておいた社員証を首にかける。
 洗面台に歩いて行って手を洗う。そういえば、身だしなみをほとんど整えていなかったっけ。
──丁度いい、ついでだ。
 顔を上げて鏡を見る。その時、俺はみぞおちの辺りにあり得ないものを見た。
 目を見開く。鏡の中の俺も、目を見開いた。
「ありえない、そんな馬鹿な」
 鏡の中の口が動く。その口も『ありえない、そんな馬鹿な』と動いた。鏡に右手をつくと、中の俺も左手を鏡につく。
 そうか、これが原因か!

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[怖い話]第07話 念仏 2017年10月20日


これは社員のまめこさんの体験談…

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アパートで独り暮らしをしていた時のこと。
その日は年に1回なるかどうかの金縛りにあっていた。

怖いなと思いつつ早く寝たいと考えていたが
ふと天井の角に目をやると・・・
男の人がコウモリのような逆さの状態でしゃがみ込みこちらをじっと見ていた。

眠気も吹き飛び鳥肌がたち凍り付く。
どうしたらいいかもわからない。
とりあえず思いつく限りの念仏を頭の中で唱えた。

はやくいなくなれ!!

懇願していると
すっと自分の枕元の横に誰かが座った。

自分が産まれる前に亡くなった祖母だった。

写真でしか見たことがなかったがすぐにわかった。
祖母は横を向いたまま一緒に念仏を唱えてくれた。

何分経っただろうか。
数秒だったのかもしれない。

ばーちゃん初めて近くで見たなと思ったらすぅっと消えていった…

金縛りも解けて男の人も消えていた。

ばーちゃんありがとう。

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2017年9月30日


子どもたちから怖い話をねだられ、私は出身地で語られる伝説を話し始める。だが、その話には真実が隠れていた──。

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 ある日、私が散歩の途中に寄った公園の東屋で休憩していると、近所の子供たちが4人ほど寄ってきた。
 最近の子はゲームばかりなどというが、ここらでは遊び場があるおかげか、未だ外で遊ぶ子供たちを見る。かくいう私も、このように出歩いて体が鈍らないようにしているのだけれど。
 とはいえ、もう年も取って体も動かない。昔みたいに動ければいい、そう思ったことは何度もある。
 私は笑いながら、「どうしたんだい」と彼らに聞く。
「おばあさん、怖い話してくれない?」
 一人の男の子が、唐突に私に言う。近所ではカッちゃんだったか、そう呼ばれていたはずの子だ。ガキ大将とまではいかないけれど、子供たちをまとめ上げている子だ。
「またいきなりだねぇ。いいよ、とっておきのを話そう」
 そういうと、子供たちは喜んで、その場に座る。私は手振り身振りをしながら、子供たちに話し始めた。
 子供は元気な方がいい……元気すぎてもいけないけどねえ。
「これはね、私の出身地の、瀬戸内海のある島で起きた話なんだ──」
 
 月のない夜。ある島の砂浜で、男二人が小さなボートの側で話し込んでいた。男たちの顔は分からないが、一人はかなり背が高く瘦せ型。もう一人は対照的に小さく太っていた。
 この島は『禁断の地』と呼ばれている。男子禁制の島で、その理由は漁師に殺された大蛇を鎮めるためだとか男嫌いの海の神様が祭られているだとか諸説ある。
 しかし地元では、ともかく「男は入ってはならない」といわれつづけている。
 なぜなら入った男は、あるものは首と胴が離れた状態で、あるものは達磨──四肢が切り取られた状態──になってこの島の岩場に打ち上げられていることなどがたびたびあったからだ。これは地元の資料館曰く、そういうことがあったという最古の記録は江戸時代らしい。それもその男は「そんな噂はない」と言って死体で見つかったそうだから、もっと前から噂はあったのだろう。
 ただ、そういう場所には得てして、肝試し目的で入り込む人間がいる。果たして、この男たちもそのようだ。
「おい、こんなところで本当に面白いもんが見れるのか?」
「俺の目を信じろって」
「8と6を見間違えて、単位を落とすようなお前の目を?」
 そういって、痩せた男が笑う。言われた方はムッとして、「いいぜ、俺だけで楽しむから」と啖呵を切った。
「おいおい、そんなこと言うなよ。で、サトー。本当なのか?」
 男の一人がムッとしたままの、サトーと呼ばれた小太りの男を小突く。それで気持ちがほぐれたのか、サトーは「あぁ、もちろんだ。美女があの反対側の岩場で裸踊りしてたのを、俺はバッチリ見たんだ」と言った。
「どんな女だよ?」
「そりゃあ、白い肌で、出るところは出て、引き締まってるところは引き締まってる女だよ……顔は見えなかったけどよ」
 サトーはしりすぼみになりながら、そういった。
「嘘だったら、パクったボート返すのお前だからな」
「ジャンケンって言ったじゃねえか!」
 もう一人の男は「冗談だ、ジョーダン」と言ってケラケラと笑う。サトーはそれを見て、胸をなでおろしていた。そして「行こうぜ、モリ」といい、それに応じたモリとサトーは二人して、島の反対側にある岩場にのんびりと歩いていった。

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 今日は月夜で、満月の光に照らされた岩場は波で濡れ、ぬらぬらと光っていた。
「滑るから気をつけろよ」
「おう」
 いくら月夜で明るいとはいえ、夜の海は危ない。少しでも足を踏み外せば、へばりついた海藻のせいで滑りやすい岩から足を踏み外し、頭を打って怪我をする。下手すると、岩についているフジツボや貝で体を切ることだってある。
 だが、彼らは慎重に足を運んで、転ばないように気を付けているようだ。それにどうも、彼らはアウトドア用の長靴を履いているらしく、足取りはおぼつかないものの滑らずに岩場を歩いている。
「本当にこの岩場か?」
 モリがサトーに声をかける。サトーは自信満々に「間違いないって!」と答える。
「俺が見たときも、こんな感じの満月だったんだよ」
「ふーん」
 サトーは見たときの状況を、砂場に押し寄せる波のように、切れ間なくモリに話していた。それにモリは相槌を打ちながら、岩場の先へと進んでいく。
 岩場の先についた彼らは足を止めた。そこは岩場の中で唯一滑らかで平らな岩の上だった。少し進めば、もう海の中だ。
「ここで見たんだよな? それもはだしで?」
「ああ……」
 モリの問いに、サトーは自信なく呟いた。どうみても、こんなところに人が来ているとは考えにくいからだ。
 そこは、今のような干潮なら足を波に洗われる程度で問題ないが、満潮になれば簡単に沈んでしまう。それに、いくら平らとはいえ周りはごつごつとした岩が出ており、裸足で歩けば怪我をするのは避けられない。また、ぬめる海藻が岩に張り付いており、ここで踊るなんて激しい運動をすれば、容易に転ぶ。
「お前の見間違いなんじゃないか?」
「かもしれねえ……こんなところに女がいるなんて、考えられねえもん」
 モリが海の方を見ながら舌打ちして、「ちっ、骨折り損かよ。帰ろうぜ」と言った。それに「だな」とサトーが返す。
 その時、空気を切る音が響き、モリの隣にあったサトーの頭が無くなった。猛烈な勢いで噴き出す血液に、モリは「え?」という素っ頓狂な声で答え、思わず後ずさる。その時、彼は足を滑らせて強か石に体を打ち付けた。
 その時、モリはその女と目が合った。
 腰に付けたベルト以外は裸の女。プロポーションは最高だろうが、顔はおしろいで白く塗られ、怨嗟の形相を浮かべて、彼をにらんでいた。その女が手に大きな鉈をもって、モリを見下している。
 女はモリの胸を踏みつける。情けない声が漏れたが、女はそのまま鉈を左脇にあてがって、上へと切り裂く。地面が割れるような悲鳴も意に介さず、女は同じように右腕を切り落とした。
 悲鳴は次第に薄れ、荒々しい呼吸が聞こえ始める。譫言の様に「はすけへ……」という声が聞こえるが、女は足を離して腰につるした水筒を開け、モリに中の塩水を浴びせかけながら、呪文を唱える。
 モリの体が何度かビクッと痙攣してから、長い息を吐いて彼の目から光が消えた。
 女は遺体を祭壇に横たえ、また呪文を唱える。そして、満潮になるまで、神に向かって踊り続けた。

「──ってお話があるんだよ。女の人は妖怪かお化けなんだろうねえ、怖いねえ」
 余韻を残すように、私は言った。どうも、この話は子供たちの心をつかんだようで、彼らは身を乗り出すように話を聞きながらも、固まっていた。
 その時、コウちゃんと呼ばれている子が、「なんで登場人物が全員死んでいるのに、おばあさんは知ってるの? 作り話なんじゃないの?」と聞いてきた。
 確かに見た人がいないと、怪談話は伝わらない。
「そうかもしれないねえ……私も地元にいたときに聞いただけだからね。でも、私の地元で伝わる話なんだ」
 コウちゃんの質問は、周りの子たちの緊張を解いたようだった。口々に「作り話か」という声が聞こえ、子どもたちは胸をなでおろす。ざわめき始めて少しすると、カッちゃんが「ありがとう、おばあさん」と言って、子供たちは別の遊びに向かっていった。
「やれやれ、忙しいねえ……元気なのは良いことだけど」
 私は子どもたちの背中を見ながら、あの当時のことを思い出していた。確かに、作り話のように聞こえるだろう。まあ、今の世の中であんな風習を続けている島があるなんてこと、そう信じられるものではない。
 だが、私が真実をすべて語ったというわけではないということに、彼らはいつ気づくのだろうか。願わくば、あの島に関わること以外で思い出してほしい。できれば、いつまでも気づかないでいてくれると嬉しい。
 本当のことを知ったら、子供たちは私に話しかけてなんか来なくなっちゃうからねえ……。

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陰 へのコメントはまだありません

【R-15】遭難 2017年8月23日


猛吹雪の中、遭難した3人は山小屋に避難する。しかし、食料のない中、彼等は禁忌を犯すことに決めるが……。

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食人表現があります。読む際はご注意ください。

 隙間風が吹き込む。ビョオ、ビョオという音が、そこら中から聞こえてくる。
 心もとない明りが風にあおられ、ゆらゆらと揺れる。光が映し出す僕らの影は、まるで踊るかのように蠢いていた。
 僕はすこしでも体温が逃げないようにと、シュラフ(寝袋)に包まれた自分の体を抱き寄せる。
「おい、スティーブ」
 シュラフにくるまれたままのリーダーが僕に声をかけ、イモムシのように近くにすり寄ってくる。そして、体同士を寄せ合って、残り少ない体温を布越しに分け合った。
「どうしました、クリス」
「アーロンの様子は?」
 僕は目を床に落とす。そこには顔面蒼白の仲間が横たわっていた。
 彼は登っている時に滑落し、開放骨折を負った。とりあえずの応急処置はしたものの、リーダーの判断で下山することに決めたのだ。
 そう、僕らは登山をしていたんだ。僕ら3人は元々大学の登山部で一緒だった。そして、社会人になってからも時間を見つけては会っていた。
 ある時、学生時代は悪天候で走破できなかった山脈を走破しようという話になったのだった。というわけで僕らは装備を持って冬山登山に挑んだのだが、中盤まで来た頃にアーロンが滑落、彼が持っていた食料や水は運悪く、全て谷底に落ちてしまった。
 リーダーはすぐさま山岳救助隊に連絡を取ったのだけど、悪天候とヘリの故障のせいで一週間は活動できないと言われた。それで、自力での下山に挑んだのだが、天候の悪化が著しくて、僕らは近くにあったこの山小屋に避難したのだった。
 そこまでは良かった。食料こそないものの、水は雪を解かせば手に入る。寒さは何とかしのげるし、場所は伝えてあるから一週間耐えれば救助が来る。
 ただ、開放骨折は感染症を起こす。それが低体温・低栄養状態では免疫力低下をおこし、なおの事、悪化する。
 アーロンも例外ではなかった。
 何度あるかはわからないけれど高熱を出しているし、何も話さず獣のような息遣いだ。これでは下手すると、敗血症性ショックを起こすかもしれない。少なくとも、すぐに病院へ運ばないと死んでしまうだろう。
「厳しいですね……治療なしだと、あと数日持つかどうか……」
「そうか……救急キットに、治療できるようなものはないんだよな……」
「ええ」僕は首をかすかに振った。「覚悟しておかないと」
 不意に眠気に襲われ、僕はそのままリーダーに寄り掛かって、目をつぶった。

 目を覚ますと、僕は床に寝かされていた。リーダーが僕の方に目を向け、カップに入った雪解け水を手渡してくれた。
「飲んでおいた方がいい。温かいから」
「ありがとうございます」
 僕はカップの中の、味もない水を一口飲む。体中に広がり、凍り付いた体を解かすような温かさが僕を包み込む。
 すると、リーダーが僕の前に来て、首を振った。
「アーロンが死んだ。遺体は取りあえず、シュラフに包んである」
 先ほどの温かさは波が引くように無くなっていき、代わりにとてつもない無力感に襲われる。
 友人を助けることができなかった。難しいことだっていうのはわかっていたけれど、それでも救うことができなかった。他に何かできたかもしれない、なにか別の方法で助けることができたかもしれないのに。
 アーロンの親になんといえばいいのだろう。僕の腕が足りずに死んだと正直に言うべきだろうか、僕らのプランが不味くてアーロンを殺してしまったと、伝えなくてはならないのだろうか。
 それに、彼には妻がいる。あの人になんて伝えればいい、あの人はぬけぬけと生き残った僕らのことを聞いて、なんて思うだろうか。
 そう思うと、僕は何とも居た堪れない気持ちになって、目から涙が零れ落ち、頬を濡らした。涙はすぐに凍り、僕の頬に線を描いた。
「そう……でしたか……」
 リーダーは気丈にも「ああ。救助が来るまで、あと6日くらいだ。それまで、アーロンのためにも生きよう」と言って、励ましてくれる。
 僕は頷いて、リーダーと一緒にまた身を寄せ合った。

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 それから三日ほどだろうか、それくらいの時間がたったころ。
 僕ら二人は強烈な飢えから動くこともなく、ただただ横になっていた。腹の虫が鳴くこともなくなり、僕らが唯一動くと言ったら、水を得るために雪を掬いに行くときくらいだった。
「いま、何日目だ」
「わかりません。もう、数えてませんから」
 最近やることと言えば、僕ら二人はたまに声をかけ合い、死んでいないかどうかの確認をするだけだ。
 僕は寝返りをうつ。目の前に、穴だらけ隙間だらけの山小屋の壁がそびえ立つ。
 アーロンが食料さえ落とさなければ、こうはならなかった。それに、あいつから漂うかすかな腐臭が胃をもぞもぞと蠢かせる。
 そういえば、肉は腐りかけがおいしいんだったっけ。そうそう、熟成肉というのもあるらしいし、新鮮な肉よりも腐った肉のほうがおいしいと聞いたことがある。
 僕は残り少ない力を振り絞り、その考えを振り払った。
 だめだ、何を考えている。友人を食うなんて、そんなことを考えちゃいけない。
 でも、その考えはとても魅力的に見えた。飢えている時なら、どんなものだっておいしいと言うじゃないか。空腹は最高のスパイスだとも、言うじゃないか。
 いやいや、そこまで堕ちれば、人としての尊厳がなくなってしまう。
 尊厳がなんだ、威厳がなんだ。飢えの前に、権力なんて意味はないんだ。
「ねえ、クリス」
 僕は壁を見たまま、リーダーに話しかける。リーダーは短い沈黙の後、口を開いた。
「……お前も、同じようなこと、考えてたのか?」
「ええ……焼けば、菌は死にますから。バーナーはありますし、調理器具だって何とかなりますし……」
 長い沈黙。その一秒が過ぎるたび、僕の飢えは酷くなっていった。早くリーダーが決断してくれないだろうか。
「それしか、ないか」
 その言葉を聞いた僕の心は、どこにこんなエネルギーが残っていたのかというほど、狂喜乱舞した。これで、このきつく苦しい、極寒の冬の化身である飢えから解放される。そのことが、僕を奮い立たせた。

 それからの二人は早かった。
 持っていたナイフで皮をはいだり切り取ったりと、動物を解体するようにバラバラにし、フライパンを熱してスライスした肉をこんがりと焼く。
 それを僕ら二人は貪り食う。それが終わると、サイコロ上に切った肉を雪と一緒に煮て、そのスープを飲み込んだ。
 肉は血抜きもまともにしなかったからか恐ろしく獣臭かったものの、とても柔らかくて、人の肉というよりは小鹿のような肉だった。人の肉が固いとか筋張っているとかいったやつは、きっと人の肉を食ったことがないに違いない。
 ある程度食べて飲み、落ち着いたころ。僕はこれまでにない多幸感に満ち満ちていた。食事がこんなに素晴らしいものだったなんて、都会での生活ではわかり得ないことだろう。
 少しして、僕は言いようもない不安と罪悪感にさいなまれ始めた。
 ついに、僕らは自分のためとはいえ、他人を貪り食うという禁忌を犯した。それがどんな目で見られることか、理解できないほど馬鹿じゃない。
 だが、食べなければ、僕らは間違いなく死んでいた。それに、僕らが飢える理由を作ったのも遭難する理由を作ったのも、彼じゃないか。
 それだけじゃない、彼は死んでいた。僕らが食べている動物たちだって、死んだ動物たちじゃないか。何が違うというんだ、死んだ人間を食べるのと死んだ家畜を食べることとの違いはなんだ、どっちも動物じゃないか。
 僕らは生きるために食べているんだ。なぜ、人間を食べちゃいけないんだ。
 そうだ、僕らを冷ややかな目で見る人間たちだって、同じ状況になれば同じことをするに違いない。彼等は口でいくらでも綺麗事を言うけど、それを支えているのは薄っぺらいプライドや習慣化した本能じゃないか。
 それだけじゃない、魚やウサギも共食いするんだ。動物である人間が、共食いをしちゃいけないなんて理由はないじゃないか。
 僕はため息をついた。獣のにおいが胃から這い上がってくる。
 そうだ、僕らは悪くない。これが自然界では普通なんだ。弱った個体や死んだ個体を食べる、それが普通なんだ。
 やっと落ち着いた僕は満腹感と頭を久しぶりに使った疲れから、また眠りに落ちた。

 それから毎日、ちびちびと肉を切っては食べを繰り返し、なんとか生き永らえた僕ら二人は、外から響いてくるヘリの音で目が覚めた。
 リーダーと視線を交わす。僕はシュラフから這い出て、外に出た。
 一週間ぶりの日光が僕の網膜を焼く。その痛みは、僕が生きていることを実感させてくれた。
 遠くに赤と白のカラーリングをしたヘリが見える。
 僕とリーダーは手にしたウィンドブレーカーを、ヘリが近くに着陸するまで大きく振り続けた。

 ヘリの中で僕らは毛布に包まれ、ペットボトルの水や簡易食糧を貰って飲んでいると、レスキュー隊員が近くに来た。
「すいません、あなた方は三人でここに来たんですよね?」
 僕はぎくりとして、リーダーの方に目を向ける。リーダーが言いにくそうに「ええ。でも……一人が死んで、生き延びるためにその遺体を少しずつ食べたんです」と、僕の代わりに答える。
──ああ、これでどんな目で見られるか……。
 すると、レスキュー隊員が怪訝な顔をして、首を傾げた。
「あの……中にあるの、足を骨折してる小鹿の死体なんですけど」
「は?」
 僕ら二人は素っ頓狂な声を上げる。訳が分からない。僕らが食べていたのはアーロンの遺体だったはずだ。
 レスキュー隊員が面倒そうに顔をしかめた。
「だから、死後何日経った小鹿ですよ。それが、綺麗に解体されて、おいてあるんです。人なんか、どこ探してもいませんでしたよ」
 僕ら二人は顔を見合わせる。その時、ヘリの無線から『登山者から遺体発見の連絡。そちらの現在地から数キロも離れていない谷底だ。引き上げることは可能か?』という連絡が聞こえる。
 数キロの地点にある谷底……アーロンが滑落した谷底じゃないか!
 それでやっと、僕はわかった。
 笑いが腹の底からこみあげてくる。まるで、おとぎ話か何かじゃないか。そして、それに必死に弁明しようとするなんて。
 そういえば、極限状態では人間は幻覚を見るんだった。
 リーダーの方に目を向けると、リーダーも笑っていた。笑いが止まらない、こんなひどいことがあるだろうか? 僕ら二人はとんでもない馬鹿のエゴイストだ。そして、弁明する必要もないことに、なぜ必死になって弁明する必要があったんだろう!
 その無意味さに、追い詰められた人間の狂気に、僕らは笑いが止まらなくなってしまった。こんなことがあるなんて!
 あきれ返った顔のレスキュー隊員がヘリに乗り込み、ドアを閉める。僕ら二人の笑い声は、上昇するヘリのローター音にかき消された。

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ループ 2017年8月18日


 見えないものが見えるようになった彼。それに恐怖し、彼はカウンセラーのもとへ相談に行くが……。

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 僕は最近見た映画に出てきた俳優に似ている初老のカウンセラーと、椅子に座って向かい合っていた。正確には、僕はソファに座っていたのだけれど。
「今日はどうされましたか?」
 カウンセラーが僕に問いかける。僕は意を決して、今まで体験したことを話すために口を開いた。
「変なものが……幻覚っていうんですか、そういうのが見えるんです」
「どのような幻覚ですか?」
「例えば、前を歩いていたはずの男性がいきなり消えてしまったり、首だけが空をふわふわと浮いていたり……おかしいですよね」
 カウンセラーはノートに筆を走らせる。
「その男性や首は、どのような姿ですか? 親戚の叔父さんやずいぶんあっていない祖父、若しくは亡くなってしまった曽祖父だとか」
 その質問に僕はびっくりした。親に言えば、「お祓いでも行ったら」と言われて蔑ろにされ、友人に言えば、「おかしいやつだ」と言われて距離を取られたというのに。
「あなたは私のことを疑わないんですか? こんな、変なことを言っているのに」
 彼はペンを置いて、首をかしげる。
「そうですね、少なくとも貴方には見えているが、私には見えていない。ということは、貴方の心の中にそのような何かがある、ということです。そして、私の仕事はそれと向き合えるように、貴方をサポートすることですから」
「そうでしたか……」僕は口にたまったつばを飲み込んだ。その言葉に救われたような気がした。「いえ、見たことのない人ばかりです」
 彼は頷き、何かを書きつける。
「では、最近読んだ小説や映画に、そのような登場人物が出てきたということはありませんか?」
 僕は首を振る。
「いえ、ありません。僕は洋画と洋書が好きですけど、出てくる幻覚はみんな日本人みたいな顔をしてますから」
「いつごろから見え始めましたか?」
「そうですね、つい最近まで一人暮らししてたんですけど、親から『帰ってこい』と言われたので、実家に帰ってきたあたりからですね」
 彼は首を傾げ、僕が一番して欲しくない質問をした。
「ご両親とは仲がいいですか?」
 僕は口をつぐむ。実は、親との仲は良くない。
 周りのみんなから「親と仲良くしないのは親不孝者」と言われ続けてきたけれど、どうやっても親と仲良くできなかった。子供のことはいつも成績のことで叱られてきたし、大学では「学費が高い」と常々言われ続けてきた。働き始めてからも、「金が足りない」と言われてきたから、給料の一部をいつも仕送りしてきた。
 それだけじゃない、もっとある。でも、思い出したくない。
「いえ……あまり」
 彼は頷き、またノートに書きこんだ。
「そうでしたか。家族構成をお聞きしても?」
「ええっと、母と父、あとは兄がいます。でも、高校生の頃に兄はどこかに行ったっきり、連絡が取れなくなってしまって」
「その時、貴方は何か思いましたか? 例えば、寂しいとか」
「いえ……兄との仲は良くなかったので、あまりそうは思いませんでした。むしろ、清々したというか、そんな感じです。でも、それから母と父は仲がもっと悪くなって……」僕は嫌な思い出を振り切るように、首を振った。「それからすぐ、僕は地方の私立大学に行って一人暮らしを始めたんです」
 彼は納得したように頷く。
「話は変わりますが、幻覚の中の『彼ら』は貴方に話しかけてくることがあるのでしょうか?」
「えっと、『君は悪くない』だとか『親がよくなかったんだ』だとか『ゆっくり生きるんだよ』だとか……ポジティブのことばかり、言ってくれるんです。でも、僕が目をそらすと、『彼ら』は居なくなってしまうんです」
「なるほど。子供のころに、そのような存在がいたことはありませんか? つらいときに励ましてくれるような存在です」
「いえ、いませんでした。友達もあんまり多くなかったですし、先生からも距離を取られていましたので」
「分かりました」彼はペンを置いた。「貴方はもしかしたら、虐待を受けていたのかもしれませんね」
 そう言われ、僕は驚いた。そんなこと、思ったこともないからだ。
「えっ?」
「この場合は心理的虐待というべきでしょう……常に叱られ、親同士の喧嘩を見せつけられる。それによって、貴方は自尊心を傷つけられながら、極度なストレスに晒されたのです」
 彼は座る姿勢を変え、僕を見据えた。
「ですから、そのような状況を改善できるようにしていきましょう。それで、きっと貴方にしか見えない『彼ら』は、また居なくなってしまうと思います」
 そんな希望に満ちた言葉を言われたことなんてない。僕は思わず、頭を下げた。
「ありがとうございます」久しぶりに笑ったせいで、ちょっとぎこちない笑顔になった。「治るかもしれないんですね」
「ええ、また来週、ここに来てください。もうすこし、いろいろ聞いてみないといけないことがありますので」
 僕は立ち上がって、改めて頭を下げた。
「もちろんです。ありがとうございました」
 彼もにっこりと笑う。僕も彼に笑い返した。

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「──で、患者の様子は?」
 私は看護師とともに、モニターを眺めていた。それは部屋につけられたカメラから、画像をリアルタイムで送ってくる。
 ここの精神病棟では、このように患者と医者が必要以上に触れないように配慮されている。というのも、ここに来る患者のほとんどに自閉傾向がみられ、自分の世界を壊されるのを嫌がるからだ。
 それに、医者側や看護師側も怪我するようなリスクが減る。尤も、彼は攻撃性がほとんどないどころか、調子のいいときは社交的なのだが。
「改善の様子はありませんね。彼、なんでしたっけ」
「妄想型統合失調症だ。投薬は続けているのか?」
「とりあえずは。ですが、目立った効果はありません」
 彼がモニターを指さす。
「面会用の椅子を自分の前に設置し、ベッドに座りながら、居もしないカウンセラーといつも話し続けています。で、話疲れたらそのままベッドに横になって、目が覚めたらまたカウンセラーと話しています」
 私はため息をついた。妄想型統合失調症は投薬の効果が出やすいはずなのに、彼は慢性化してしまった。唯一、暴れることがないのが幸いか。
「食事はしっかり出しているのか?」
「ええ。食べているときはまともというか……私も食べているときに彼と話をするんですが、とても思索的で知的です。よく、映画の話とかするんですけど」
 きっと、それが本当の彼だろう。だが、妄想型統合失調症を患った人格が、その彼を押さえつけてしまっている。
「食べているときはまともか……。解離性障害のせいだな」
「彼、治るんですかね?」
 看護師が問う。私は「わからん」と言って首を振った。
「どうして、ここに来たんでしたっけ?」
「他人の家に入り込んで、ここと同じことをやった。で、通報されて警察が来たんだが、この通りだから責任能力がないとみなされ、ここに来たんだ。まあ、椅子の配置が変わっていたくらいで、家もほとんど荒らされてなかったらしい」
「そうでしたか……」
 私はまたモニターを見る。彼は、椅子に向かって話し始めていた。
──彼は常に日常をループしている。彼の日常は、ここにしかないということか。
 声がスピーカーから流れる。私と看護師は、別の患者を診るために部屋を後にしようとドアに向かう。
『変なものが……幻覚っていうんですか、そういうのが見えるんです』
『例えば、前を歩いていたはずの男性がいきなり消えてしまったり、首だけが空をふわふわと浮いていたり……おかしいですよね』
『あなたは私のことを疑わないんですか? こんな、変なことを言っているのに』
 ドアを閉めるまで、彼の言葉は空虚な部屋に響き続け、部屋の中を巡り回っていた。

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[体験談]金縛りレポート その1 2017年8月6日


〇お読み頂く前に

これはぐおじあが金縛りに遭った体験を記したものです。
体験した事無い方や、他の方体験とは感じ方が異なる恐れがあります。
広い心をもってお読み頂く様お願いします。

ぐおじあはお祓い等を受けることは望んでおりません。
霊媒師の方は営業をお控えください。
※ホラー屋がお祓いなんて受けたら商売上がったりですよ

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〇金縛りとは

睡眠時等に急に体が動かなくなる現象。
医学的には睡眠麻痺と呼ばれる(Wikipediaより抜粋)
※金縛り自体は医学的に認知されている現象である

〇はじまり

小学5年生くらいの頃、兄と友人と近くの廃寺に心霊ツアーに行った。
その日の帰り道、最後尾の僕の後ろから足音が聞こえた。
その足音は僕らの後ろについて来る様に動いていた。
僕は怖くてたまらなくなり叫びながらダッシュした!
兄と友人もつられて逃げたが、二人は僕よりも足が速かったため、
僕だけ置いて行かれる形となった。

その後無事帰宅した僕は友人と別れ兄と寝室に戻った。

寝入ってどれくらい経ったろうか…
ふと目が覚めた僕は寝がえりを打とうとしたが体が動かない!

これが僕の初めての「金縛り」だった

しばらく恐怖でもがいていると、
今度は空中から腕が一本生えて来て僕の服の襟を掴んできた。
恐怖でうめきながら必死に抵抗していると…

「うるせぇ!」

2段ベッドの下で寝ていた兄が怒鳴った!
途端に金縛りは解け腕からも解放されていた…

〇金縛りで起こる事と大体の割合

1. 体が動かない(100%)
2. 何か音が聞こえる(50%)
3. 何かが現れる(20%)
4. 首を絞められたリ掴まれたりする(20%)
  ※姿が見えない時もある

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〇金縛りの解き方

金縛りは全身が麻痺してると思われがちだが、
指などの末梢部分は少し動く事が多い。
何度も動かしていると徐々に腕→方の様に部分的に解けていく。
半身が動くようになったあたりで一気に体と動かすと解ける。
※ただこの動作は異常に疲れるのでぐおじあは基本やらない
※体を大きく動かしても解けない場合は自分にビンタする

〇金縛り→明晰夢への移行

金縛りは要は意識が覚醒しつつの睡眠状態。
無駄な抵抗をせずにまったりしていると明晰夢となり、
金縛りがかかった景色から明晰夢に入れる。
ぐおじあは大抵建物から建物に飛び移って遊んでいるが、
景色は基本的にリアルとはだいぶかけ離れている。
※明晰夢 : 夢の中で自分が夢を見ていると分かっている状態
※明晰夢時は興奮し過ぎるとすぐ醒めるので注意

〇エロい金縛り

時々怖い話で出てくる夢魔的なエロい体験は
金縛り由来のモノだと考える。
金縛り中は五感はほぼ機能している(と感じる)ため、
色々な感覚を味わえることがある。
基本的には息苦しいモノが多いが、
人に抱きつかれている様な感覚になったり、
色々体中を弄られているような感覚に陥る。
時には敏感な部分にもその感覚がくるので、
「幽霊にエロい事をされた」と感じると思われる。

〇まとめ

1. 金縛りは生理現象なので特に怖がる事はない。
2. 怖いと思うと変なモノが出てきやすくなる。
3. 逆転の発想で楽しむと意外にエンターテイメント☆

〇あとがき

金縛りは怖いと思われがちですが、
慣れてくると色々な非日常が味わえて楽しいです。

が…

僕もかなり怖い目にも遭って来たのでその辺はまた次回以降に(゜ρ゜)b

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[体験談]金縛りレポート その1 へのコメントはまだありません

【R-15】インタビューアー 2017年8月5日


とある町で起きた最悪の殺人事件、『ナイトレーヴェン事件』。ある記者がその当時のことを、すでに引退した担当刑事に聞きに行く。だが、そこには真実が隠れていた──。

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【注意】この小説には過激な表現が含まれています。15歳以下の方は閲覧を控えるよう、お願いいたします。

 とある週刊誌の記者である私は、十数年前に発生した『ナイトレーヴェン事件』を振り返るという企画の元、その当時の担当刑事に話を聞きに来ていた。
 ナイトレーヴェン事件、別名、闇夜のカラス事件。10年間で130人が殺された事件だ。
 犯行は必ず新月の日の深夜、娼婦がこの地域一帯で場所を問わずに狙われた。手法はまず、後ろから頭を殴りつけて気絶させてから、人気のない路地裏へ引きずり込む。そして、足と手を──手は身体の前で合掌させてから――ダクトテープで縛りつけて、被害者を祈るように跪かせ、眉間を38口径で撃ち抜く。
 これだけ見るとただの猟奇殺人だが、特徴的な点として無造作に捨てられた遺体の髪にはカラスの風切り羽根が必ず挿されており、それがナイトレーヴェン(ワタリガラス)の由来になっている。
 ナイトレーヴェンに対して、当時最高峰の科学技術やプロファイリング技術、そして延べ何万人もの警察関係者が投入された。徹底的な聞き込みやマスコミを利用した情報提供の呼びかけ、目撃者の捜索などなど……彼らの労力は相当なものだった。
 しかし、彼はまるで闇夜のカラスのように見つけることはできなかった。
 だが、十数年前、彼の犯行はぴたりと止んだ。死んだという説や引っ越したという説が唱えられたが、どれも確実性に劣る仮説で、ナイトレーヴェン事件は少しずつ民衆の中から忘れ去られていった。

 私は思考の中から戻り、前に座っている老人に意識を向けた。彼は当時の担当刑事で、今でも独自に調べ続けているとの話だ。その熱意には、感心するほかない。
──初めまして。私はエイドリアン誌のテッド・リー・ルーカスと申します。
「初めまして、ルーカスさん。私はロバート・ウェブスター、ロバートと呼んでいただければ十分です」
 80代とは思えないほど、しっかりとした声と姿勢。これなら、話しかけるのも気を使う必要──尤も職業柄、人が聞きやすい話し方には慣れているが──はないだろう。私も年を取ったら、こんな風にしゃんとしていたいものだ。
──ロバートさん。これからインタビューをしたいのですが、ICレコーダーで録音することとメモを取ることを許可して頂けますか。
「もちろん」
 そういって、彼は微笑む。私はICレコーダーとメモ帳をポケットから取り出し、レコーダーを机の上においてスイッチを入れてから、メモ帳を開いてペンを持った。
──では、これから始めさせていただきます。
「ええ。何から話しましょうか。あの恐ろしいナイトレーヴェン事件の、何をお聞きしたいのでしょうか」
──そうですね……警察は、どこまでつかんでいたのですか。ナイトレーヴェンについて、どんな犯人像を描いていたのでしょうか。
 彼は私の質問に静かに頷き、言葉を選ぶように目を泳がしたあと、口を開いた。
「まず間違いなく、奴はシリアルキラーでしょう。サイコパスであり、洗練された手口から考慮して、当時30代半ばの知能指数が高い人間だったのではないかと。また、一種の狂信者だったものと思われます」
 狂信者というのは当時の資料になかった。私は興味を惹かれ、もう一度聞きなおす。
──どうして、そう思うのですか。なぜ、狂信者と。
「奴は娼婦だけを狙った。娼婦を狙う人間はいくつかのパターンに分けられます。
まずは社会的弱者を狙うほかない人間。この場合はホームレスやジャンキーも含まれますが、奴は娼婦だけを執拗に襲った。つまり、この可能性は低いのです。
 次に女性へのトラウマを持つ人間。ヘンリー・リー・ルーカスや、サイコパスとは異なりますがテッド・バンディが良い例です。前者は売春婦であった母親のヴィオラが狂人で、性的虐待を受けていた。後者は交際していたが破局した女性によく似た女性を狙った。これらは女性関係でトラウマを持っていたために、女性を狙い、残忍な方法で殺した。だが、奴は女性を狙うのは確かだったが、殺し方は残忍といいがたい。
 そして、性的不能者。自らの性欲を殺人という形で発散するタイプの人間です。その場合、刺すという行為を性行為と考えるために、彼らはナイフを用いて殺人を犯します。だが、奴は一度もナイフは使わなかった。
 そうなると、最後の可能性……自らを神の使いだと考え、神の意志に従っているという狂信者の可能性があるのです」
──だから、狂信者だと。
「ええ。奴は娼婦という存在が許せなかったのでしょう。実際に、キリスト教では妊娠目的以外の性行為を認めておりませんし、奴はまた処刑スタイルと呼ばれる、眉間を撃ち抜くやり方で彼女たちを殺した。ですから、私たちは熱心に日曜のミサへ行く信心深い人間を中心に調べを進めました。また、神学校を卒業した人間もその中に入れました」
 私はメモにそのことを書きとる。面白い視点だ。
──では、カラスの風切り羽根は一体。
「奴は狂信者であり、演出家なのです。カラスにどのような意味があるか、ご存知でしょうか?」
──不吉な存在、悪の使いという解釈がありますね。
 彼は首を振った。
「確かにそれもあります。しかし、奴は自らを『神の使い』だと考えたのです。ギリシア神話、北欧神話、ケルト神話、旧約聖書……カラスが神の使いとされている神話や宗教は、意外と多いのですよ」
──興味深いですね。自らを『神の使い』と考えるなんて。
 私は彼に失礼だとは思いながら、義足の付け根を擦る。たまにここが痛んで、擦らずにはいられないことがある。全く、十数年前の事故を未だに引きずることになるなんて。
「ええ。自らは神の使いであり、現世から不浄なものを始末している。それが奴の持つ妄想なのです」
──なるほど。
 彼は神妙な面持ちで頷く。参考になる話は十分に聞くことができたし、この話はこれくらいでいいだろう。
私はメモを捲り、用意していた質問を読み上げた。
──興味深いお話、ありがとうございます。では、今、彼は何処にいると思いますか。
 その質問に、彼は顔をしかめた。
「難しい質問ですね。どうして、十数年前から事件を起こしていないのかも分かりませんから……とはいえ、近くに居るものと思われます」
──どうしてですか。
「奴の犯行場所から割り出した地理的プロファイリングでは、奴は地元の人間です。また、ここは治安があまりよろしくない。犯罪者には格好の隠れ場ですし、標的も多く居る。奴は自信家ですから、警察は捕まえられないと考え、慣れたこの場所にとどまっているものと、私は考えています」
──死んだ可能性は考えないのですか。
 そう聞くと、彼は笑った。だが、すぐに「失礼」といって、真顔に戻った。
「もし、奴が死んでいたとするなら、遺品整理の時に大量のカラスの羽が家にあるという通報が来ることでしょう。『動物虐待ではないか?』という通報が」
──なるほど、そのような通報はなかったのですね。
「ええ、今まで一度も来たことはありません。奴のカラスの羽はすべて生きたカラスからむしり取ったもので、家にはその痕跡が残っていることでしょう。で、それを見た親族が何を考えるか、容易に想像がつきます」
──興味深いですね。とはいえ、彼がどうして犯行を止めたかはわからない。
 私はそう言いながら、義足の付け根をさする。
「ええ。私は交通事故か何かで、体の自由を奪われたのではないかと思っています。それで、天から与えられた任務を果たせなくなった。もちろん、同僚の中には死亡説を唱える者や引っ越しして別の場所で殺し続けていると考える者もいますが、あくまで私はそう考えておりません」
 私はメモ帳にそれらのことを書きとめる。
──ありがとうございます。
彼はにこやかに笑い、「いえいえ。このような犯罪が、記憶に埋もれてしまうのはよろしくありませんから」と言った。

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──では、最後に。一つお聞きしたいことがあります。オフレコでもよろしいですか。
「ええ、構いませんが……何でしょうか?」
 彼は私の質問に快く答えてくれた。そのお返しをしないといけない。
 私はICレコーダーを切り、メモ帳とともにポケットにしまった。そして、椅子から立ち上がり、ポケットから.38スペシャル弾を装填した小型のリヴォルヴァーを取り出して彼に向けた。
 それは、130人の命を吸った拳銃。
 そして、131人目の命を吸い取るであろう拳銃。
 彼がまるで化け物を見たかのような、口をポカンと開け、目を落ちんほどに見開いた顔で私を見る。
 こんな顔を見たのは、私が母親に銃を向けて殺した時以来だ。あのクソアマは、無力で男に体を売るしかなかった自分ではどうにもできないフラストレーションを私にぶつけ、それでストレスを発散していた。
 それだけじゃない、あのイカレポンチは実の息子である私すら金儲けの道具にした。全く、あれがいなければ、私はもう少し幸せだっただろう。尻のヴァージンもまだ守られていたかもしれない。
「まさか……」
 人間というのは面白いもので、銃を向けられていると体が硬直するらしい。全く共感はできないが、そういうものなのだろう。
──ええ、私がナイトレーヴェンです。あなたの捜査は素晴らしい。一つも、外れていなかったのですから。
 彼が「記者だったのか?」と声を絞り出す。
──死にゆくあなたにはお答えいたしましょう。いいえ、私は記者ではありませんでしたよ。とある方が『快く』私に身分を貸していただけたのでね。本職は司祭ですよ。
 ナイトレーヴェン事件の真相を知りたいというネタを流して、のこのことついてきたエイドリアン誌の記者には感謝しなくてはならない。尤も、彼は私の感謝の言葉を聞くこともできなければ、返事をすることもできないだろうが……。それに、そろそろ角膜が白濁して、私の顔も見えなくなっている頃だろう。
「君は神のもとに生きるのではないのか?」
 私に対して神の教えを説くとは。思わず、私は笑ってしまった。
──申命記22章では、処女でない女はすべて死刑にするべきと。私は神に従い、代行しただけです。
 彼は力なく首を振る。
「だが、モーセの十戒では『汝、殺すなかれ』と……」
──『汝、罪のない人間を殺すなかれ』ですよ。姦淫は罪であり、死に値するのです。
「君は何故、十数年前に殺しを止めた? そして、何故また始めようとしているのだ?」
 私は頬の筋肉を引き上げた。
──神が私に交通事故という試練を課し、それに十年ほど取り組んでおりましたのでね。二番目の質問には、世の中には不浄が多すぎるから……そうお答えしておきましょう。神は私に世の中を浄化せよと告げたのです。
 彼はため息をついた。
「確かに、君は狂信者のようだ」
──誉め言葉を、どうもありがとう。
 乾いた銃声。久しぶりに感じるリコイル。崩れ落ちる刑事の亡骸。
 近寄って眺めると、生きていた時とは全く違う、力の抜けた遺体があった。これで、神からの使命を妨害しようとした異教徒は、神の祝福によって居なくなった。
 しかし、亡骸がまるで糸の切れた操り人形だ。確かに私が彼を20年近くも操り、捜査をかく乱したことは間違いようもないことだが……まあいい、用の済んだ人形は片付けなければ。
 私は漂白剤を探すため、物置に向かう。今夜どこで肉欲に塗れた異教徒を探そうか、そんなことを考えながら。

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緊急通報 2017年7月12日


 間違えて入力された番号にかけてしまった僕。それから数日後、僕は怪奇現象に襲われ始める。

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 ポケットからスマートフォンを取り出した僕は、その画面表示に顔をしかめた。
「なんだ、この番号?」
 よくポケットにスマートフォンを滑り込ませると、何かの拍子に電源ボタンが押されてスリープモードが解けて、変なところ──例えば、緊急通報だったりカメラだったり──がタッチされてしまうことがあると思う。
 それで緊急通報を開いてしまったとき、やっぱり何かによって、意味の分からない電話番号が入力されてしまう。そんな経験をしたことのある人は多いんじゃなかろうか。
 僕が直面している事態は、まさにそれだった。
 画面には『1842550129126』という文字列。いかにも適当に打たれたという数字だ。
 いつもなら全部消してしまうのだが、なんとなく興味惹かれてしまった僕は、発信を押してみた。
──つながるわけないよな。
 スマートフォンのスピーカーから流れるコール音。それが5回続いたとき、僕は苦笑いを浮かべて電話を切った。
「かかるわけないよな」
 そりゃあそうだ。普通の固定電話でも10桁、携帯電話でも11桁なのに、13桁の電話番号なんて存在するわけがないんだから。
 僕はまた電源ボタンを押してスリープモードにしてから、スマートフォンをポケットに滑り込ませる。
 時計を見ると、もう電車の時間まで5分とない。
「いけね、馬鹿やってる暇じゃなかった」
 そう呟いて、僕は電車に乗るために駅に向かった。

 バカみたいな電話をしてから数日後。あんなこと、僕はすっかり忘れていた。
 そう、あの着信が来るまでは。
「ん?」
 不在着信。電話番号は1842-550-1291-26。
──なんだ?
 一瞬折り返してかけようと思ったけれど、市外局番でもなければ携帯電話の番号でもない頭四桁の数字に戸惑う。どこからこんなものがかかってきたんだろうか? それに、異様に桁数が多い。
 考えあぐねた僕はその履歴を削除した。気味の悪いものは無視するに限る。
 それから一時間もしないで、スマートフォンが着信音をかき鳴らしはじめた。部屋でくつろいでいた僕は、少し驚きながらも画面を見る。
[着信中 1842-550-1291-26]
 またあの番号だ。何度もかけてくるということは、緊急かそれとも別の何かか。
 迷っているうちに電話が切れた。
「なんなんだ……?」
 僕はノートパソコンを立ち上げて、検索エンジンに〈電話番号検索〉と打ち込む。そして、出てきたサイトの検索欄に先程の電話番号を打ち込んでみた。
──該当なし。そうなると、一体どこから?
 存在しない電話番号から電話がかかってくるなんてあるのだろうか? それとも、個人の電話番号なのだろうか?
 僕は疑問を抱いたまま、スマートフォンの着信履歴を見る。謎の電話番号は間違いなく、そこに存在している。
「まあ、またなんかあったら次は出てみよう……」
 そんなことを思いつつ、僕はスマートフォンをミュートにしてから、ベッドにもぐりこんだ。

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 翌朝。スマートフォンのミュートを解こうと、画面を見た僕は驚いた。
「うへえ……」
 着信履歴が不在着信で埋まっていたからだ。それも着信は大体10分おきに。さらに付け加えるなら──予想通りというかなんというか──その電話番号はあの謎の番号だ。
 初めて事の異様さを認識した僕は、予め電話に備わっている迷惑電話拒否設定にその番号を登録し、非通知にも反応しないように設定した。
──これで大丈夫だろう。
 ひと時の安心感を取り戻し、僕はスマートフォンをもって外に出た。今日もまた、友人との用事がある。
 外に出てすぐ、スマートフォンが着信音をかき鳴らす。
──まさか……。
 画面を見ると、友人の電話番号だ。安心した僕は電話に出た。
「もしもし」
『よ……の……』
 なんだ? ノイズが入って聞き取れない。場所が悪いのだろうか。
 そう思い、少し歩いたところにある駐車場に行ってみる。ここなら開けているから、電波も通りやすいはずだ。
「もしもし?」
『……ザー……ザザー……』
 駄目だ。
 僕はいったん電話を切り、もう一度友人にかけなおす。
 2コールで友人は出た。
『……ど……』
 またダメだ。ついに電話にガタが来たのだろうか。でも、買い替えてすぐなのに、そんなにすぐガタが来るのか?
 すると、スピーカーから声が聞こえた。友人の声じゃない、もっと年を取った男の声だ。喉を何かでつぶされたように、声がくぐもっている。
『どう……でん………ない』
「誰だお前?」
『……して……わにで……』
 ブチッという音、そしてツーツーツーという電子音。
 電話が切れた。
「一体何なんだ……?」
 首筋がぞわぞわするような気味の悪さに襲われた僕は、友人に『今日の予定はなしで』という趣旨のショートメッセージを送った後、僕は電車に乗ることを考えて、スマートフォンをバイブに設定する。
 そして、数駅離れた最寄りの携帯ショップに向かった。
──きっと何か壊れたか、混線したんだ。そうに違いない。

 電車に乗っている最中も、スマートフォンは絶え間なくバイブし続けていた。周りの人間からは好奇の目で見られたり、親切な人は「電話なっていますよ」と教えてくれたりしたけれど、僕はそんなことを気にしている余裕もなかったので軽く流していた。
 最寄り駅に着いて電車から降りる。その間も、バイブはなり続けていた。
──くそ、止まれ!
 その刹那、バイブが止まる。
「ん……?」
 恐る恐るスマートフォンを取り出すと、普通なら寸前まで着信があれば、ロック画面くらいにはなっていそうなものだけれど、画面は真っ黒だった。
 黒い画面が僕の顔を映す。いや、映すべきなんだ。
 そこにあった顔は、人というよりミイラに近いくらいに窶れていて、喉が潰れている老人の顔が写っていた。
 声にならない悲鳴を上げて、スマートフォンを取り落とす。独特なガラスの割れる音と同時に、バイブにしていたはずなのに、音が鳴り始めた。
──着信音じゃない。なんで、着信ボタンを押してないのに声が……?
 奴の声が、スピーカーから響く。
『どうして………に……い』
「やめろ……」
 やっと気づいた。奴の言いたいこと、そしてこの怨嗟の言葉を聞いてはいけないことが。
『どうして電話に……い』
「やめてくれ……」
 声が聞こえる。
「どうして、電話に、出ない」
 僕が最後に聞いたのは、自分の喉から出た絶叫だった。

 数週間後。
 僕はあの後自ら指を耳につっこんで、鼓膜を破ったそうだ。医者曰く〈人間業とは思えないんだけどね〉とのことだが、実際にやってしまったらしい。
 そういうわけで、僕は鼓膜が元に戻るまで耳が聞こえなくなった。加えて、やはり強引だったらしく、外耳も内耳も傷ついてしまったために、以前のような聴力は戻らないとのことだ。
 それでも、あの老人……正体は全く分からないけれど、あいつの声を聴くよりはましだ。
 あと、あれ以来、僕はスマートフォンどころか携帯電話を持つことを止めた。
 どちらにせよ、ヘビーユーザーではなかったし、この時代ならスマートフォンの機能を肩代わりしてくれる機材なんて、いくらでも手に入るから。
 そんなある日のこと。
 僕のポケットが震える。
──ん?
 取り出すと、ガラスにひびが入っているスマートフォンが出てきた。色も形も、以前持っていたものと同じだ。
──まさか……。
 僕は青ざめる。
 画面には、[着信中 1842-550-1291-26]の文字があった。

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併存 2017年5月27日


掲示板にあった、自分とそっくりな不審者の目撃情報。彼は真相を暴こうと、不審者を追いかけるが……。

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 俺が日課の散歩しているとき、ふと町内会の掲示板に貼ってあった張り紙が目についた。近寄って見てみると、それは不審者情報の張り紙だった。
「身長170cmほど、20代前半の男。やせ形の黒髪で、眼鏡をかけている?」
──まるで俺じゃあないか。
 今まで呟いた特徴はすべて俺に一致していた。俺は張り紙の下の方に目を滑らす。
「マスクをかけ、上は黒のパーカー。下は迷彩柄のカーゴパンツ……この子、よく見てるな」
 この服装は俺のお気に入りだ。
「複数の女子小学生に対し、『お兄さんと一緒に遊ぼうか』などと声をかけた。似ている人物を発見したら、警察へ……」
──自分で自分を通報するか? そんな馬鹿に付き合うほど、警察も暇じゃねえだろ。
 俺は自分の考えに失笑を漏らした。それに俺はペドフィリアじゃない。それだけでも、俺が不審者じゃないという証明になるし、小学生となんてここ十数年話していない。
「ばかばかしい」
 そう呟いて、俺は散歩をつづけることにした。掲示板のことは気になったが、その理由は俺が間違えられて捕まるんじゃないかという不安からだ。
──そんなことねえよなあ。それだけは勘弁だ。
 漠然とした不安が俺の心にヴェールをかける。すると、近所のお節介焼きとして有名な山田さんが俺に近寄ってきた。
「ねえねえ、あの掲示板見ました?」
「ええ、見ましたよ。俺のこと、犯罪者だとかいうんじゃないでしょうね」
 おばさん特有の、手で空中にいるハエをはたくような仕草をする。そういえば、母親もこんな仕草をしていたな。
「やぁねぇ、そんなことをするわけないじゃない。でも、怖いわよねえ。女の子ばっかりに声をかけるのよ」
「不審者なんて、そんなもんですよ」
「あらぁ、不審者のことを知ってるような言い方じゃない」
──うるせえババアだ。
「じゃ、忙しいのでこれで」
 俺は山田さんが何か話そうとするのを遮って、自分の家に帰る道に足を向けた。さっさと家に帰って、明日の仕事の準備をしないといけない。
 道すがら、俺はあの掲示板に目を向けた。そこには間違いなく、張り紙が貼ってあった。

 翌日。
 職場に向かうために、洗ってあるワイシャツを探そうと衣装棚を漁っていると、あのお気に入りのパーカーがあった。
──最近は出かける暇もないから、私服はほとんど着てないな。
 試しに広げてみる。どこも汚れておらず、変な皴もついていない。試しに臭いも嗅いでみたが、最近着た形跡はない。
「やっぱり、俺じゃねえ。どっかの俺そっくりの奴なんだろ」
 俺はなんとなく気になって、パーカーを洗濯籠に投げ入れてから、またワイシャツを探す作業に戻った。
 半時間後、家を出て駅に向かって歩いていると、小学生と思わしき子供達が近所のボランティアに連れられて、集団登校をしているのが見えた。多分、この近くの小学校だろう。
 もちろん、見たところで食指が動くようなことはない。むしろ、年上の方が好みだ。
──なんでこんなに気にしてるんだろうな……。
 自分じゃないと分かっていても、その思いが頭によぎる。ふと、腕時計を見ると、電車の時間までもう少しだった。
「やべえ、急がないと」
 俺はカバンを背負いなおして、革靴で駅まで走っていった。

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 仕事が終わりって家路についた俺は、帰宅ラッシュの波にのまれていた。この時間、電車は学生から社会人まで、いろんな人でごった返す。
 流れに流されるまま、駅の階段を下りてホームにつく。すると、向こう側のホームに怪しい人間が居た。向こうのホームは上りで人がまばらな分、良く見える。
──ん?
 黒いパーカー、迷彩柄のカーゴパンツ。スマートフォンを見ているように俯いているため、顔は見えない。身長は隣にある自動販売機の高さから見て、170cmほどだろう。そして、やせ形の黒髪。
──もしかして、あいつは……?
 俺はすかさず、階段に向かった。走れば、向こうのホームまで行くのにそう時間はかからない。上手くいけば、取り押さえられるはずだ。
 二段飛ばしで階段を上る。日課の散歩のおかげで、体力だけは自信がある。
 そしてすぐさま、対面のホームへ降りる階段に向かって走った。パルクールのように階段を何段も飛ばす。降りる姿を見た人たちの目線が刺さるが、そんなことはどうだっていい。
 ホームについて周りを見渡すと、奴の姿はなかった。
──嘘だろ? 階段ですれ違ってないぞ。
 トイレに走り、中を覗き込む。誰もいない。個室は鍵がかかっていないし、ドアを開けても誰もいなかった。トイレから出てエレベーターの階層表示を見る。一階で止まったままで、誰も乗らなかったようだ。
──幻覚でも見たか……。くそ、気にしすぎだ!
 心の中で悪態をつきながら、俺はかぶりを振った。
 両方のホームに電車が入り、続々とホームの人間が乗り込む。
──これで、仮にまだホームにいたとしても、追うことはできないな。
 そんなことを思いつつ、俺は下りのホームに戻るために、階段を上っていった。一本電車を逃すことになるが仕方ない。ただ、何とも言えない違和感が、心の中に渦巻いていた。

 幻覚か現実か、わからないものを見てから数日後。ここ数日、狐につままれた気分だった。
 仕事をしつつもあれが頭から離れなかった。あれは見間違いじゃない、間違いなく俺は見た。あの、俺そっくりの不審者を。
──くそ、今度会ったら捕まえてやる。絶対、捕まえてやる!
 そう心に決め、せっかくの休日を奴の捜索にあてた。
まず初めに、俺は以前奴を見た駅に向かった。今のところ、ここでしか見ていないため、ここをあたるしかないのもある。
 目立たないジーンズと白のシャツに黒のジャンパーを羽織った俺は電車から降りて、ホームに立つ。
 すると、階段の近くに黒いパーカーの男が見えた。
 速足で後ろから近寄り、肩を叩く。振り向いたのは、20代くらいのおしゃれな兄さんだった。よく見ると、ズボンは白だ。迷彩じゃない。
「なんです?」
「あ、いえ。人違いでした」
「そうですか。誰か探しているなら、お手伝いしますよ」
「いえ。大丈夫です」
 俺はその人から離れ、改札に向かう。
 そして、駅前のロータリーに出て周りを見渡した。疑わしい人間はいない。
 近くにある自動販売機でジュースを買い、出口前のベンチに腰掛ける。この位置なら、だれが目の前を通ろうと良く見える。
 目を凝らしてから数十分後、見続けるのにも飽きてきた頃。
駅から出てくる黒のパーカーに迷彩柄のカーゴパンツの男が居た。黒髪で、身長はざっと170cmほどのやせ形。
──あいつだ!
 俺はジュースを置いたまま、ベンチから立ち上がって走り寄った。だが、男はそれを察知したのかなんなのか、速足で地下鉄に入っていった。
──逃がしてたまるか。
 地下鉄に入った俺は、持ち合わせていたICカードで改札を通る。
 上りの同じ車両に乗り、少し離れたところから奴を監視する。奴は先ほどからずっと、スマートフォン──俺が持っているものとケースまで同じもの──を見ながら、下を向いたままだ。一体何を見ているのだろうか?
 そのまましばらくすると、終点だというアナウンスが流れた。それを聞いた奴はスマートフォンをしまって、ドアの前に立つ。どうも、ここが目的地らしい。
 終点について、奴が電車を降りる。俺もついていくと、奴は改札口から出て、少し駅の近くを散策した後、また改札口に入っていった。
 普通なら、そんな面倒なことはしない。乗りすぎたのか? それとも、ここが目的地ではないのか? もしくは、俺の予想もできないような別の理由が?
俺の中の執着心が、少しずつ好奇心に変わっていくのを感じた。何かおかしい。一体、この行動に何の意味があるんだ?
 奴は下り電車に乗る。俺もそれについていった。
 
 そして、奴が降りた場所は最初に電車に乗った駅だった。つまり、最初に奴を見かけた駅の近くにある、地下鉄の駅だ。
 そのまま追っていくと、奴は改札を経て出口から地上に出た後、駅の近くにあるビルに向かっていった。そのビルは何の変哲もない雑居ビルで、何回も駅から見てはいるものの、興味惹かれるようなものはなかったために中に何が入っているのかも覚えていない、ただの背景と化しているビルだった。
 そこに向かう奴を追っていると、踏切に差し掛かる。駅の向こう側にあるから、ここを通らないとビルに行けない。
 奴の後を追って踏切を渡る。
 奴は踏切を渡り切るころ、俺は踏切の中ほど──ここの踏切は4本あって大きい──に差し掛かっていた。
 その時、くるりと奴が体をひねって、俺と向かい合う。
奴の顔は笑っていた。だが、俺は驚きのあまり、声が出なかった。
 周りがぼやけて不鮮明になって、ただ「奴の顔」だけがスクラップ写真の様に強調され、俺の目に張り付く。周りの音がフェードアウトし、耳に届くものは、自分の激しく脈打つ心臓の音だけだった。
──おかしい、絶対、こんなことはあり得ない。
 遠くで踏切が鳴る音が聞こえる。
 風を切る音が聞こえる。
 周辺に、車輪とレールの擦れる、激しい金属音が響いた。

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[心霊ツアー]新潟県柏崎市某トンネル 2017年5月6日


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どうもこんばんは、ぐおじあです(゜ρ゜)

今回はゲーム開発用の資料として、
新潟県柏崎市にある某トンネルに行ってきました☆

[心霊ツアー]新潟県柏崎市某トンネル

ぶっちゃけしてしまうと何も映らなかったんですけどね♪
もし気付いてない所に変なものが映ってたら教えてください(η゜з゜)η

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